「お疲れ様でした、達也さん。どうですか?気分が悪くなっていませんか?」
「ああ、問題ない。無理なく発動できた。これなら美月も九校戦のエンジニアになれると思うぞ。」
「いいえ、私はエンジニアよりもエリカちゃん達と応援する方が性に合っていますから。だから、なりません。」
「……美月、その言い方だと、エリカ達が選手に選ばれないと確信している…という誤解を与えると思うぞ?」
「え!? そ、そんなはずでは…!! ど、どうしたら…!!」
「落ち着け、美月。大丈夫だ、ここにはその本人達はいないし、仮にエリカ達が聞いていたとしても、笑って許すさ。」
「そうでしょうか?」
「ああ、あくまで予想だしな。そこまで深く考えなくてもいいだろう。」
安堵した美月が胸を撫で下ろす。逸れた話に一段落つけて、達也は情報端末に出している課題のデータを見ながら、話しを再開する。
課題は二人とも基準の採点を超え、残りの授業時間を持て余していた。まだ半分もあったため、二人は他のクラスメイト達が終わるまで、先程の課題の改善点について話し合う事にしたのだった。しかし、実際には達也が美月の課題に対するアドバイスを提供する流れになっていたが。
「………美月は相手の特徴を生かしてCADの調整もできていたし、調整技術も基本は出来ている。だが、相手の特徴や特性、得意な魔法を生かしたとしても、環境に合わせた調整も入れないと、それが却って危険になる時もある。
今日の課題は試験的な意味で、実習室での一つの魔法行使だが、ここが屋外での連続魔法行使なら、魔法を行使する相手の心境も変化するものだ。その変化も考慮した予測や環境を踏まえたCAD調整をすれば、次の調整までの期限も長くなったりするしな。」
「…まるでCADの調整は軍師のように試行錯誤しないといけないのですね。」
「ふ…、例え方はともかく、大体そういう事だな。」
深く頷きながら、達也のアドバイスを熱心に聴く美月に、その後もいくつかアドバイスした後、授業時間も数分残すだけになった。片付けも大方終わって、ざっと実習室を見渡してみた。すると、女子生徒達がまたしても達也を凝視し、目が合うと、瞬時に逸らしてしまうのだ。
「………美月、俺は何かまずい事でもしたのか?」
「違いますよ! 達也さん、”RYU"というアイドルの事、知っていますか?」
「名前は知っている。…というより通学中にそのアイドルと間違われて声を掛けられた。…関係があるのか?」
「あるもないも、皆さん、達也さんがあまりにも”RYU"さまと雰囲気が似ているので、もし”RYU"さまがこの学校にいたら、ファンクラブを作って、近くに隠れて拝む事が出来るのに…って話しているんですよ?
朝からこの話で女子達には持ちきりです。
私も改めて達也さんを見ると、”RYU"さまに似ているな~って思いますから、彼女達の言う事も一時あるかなと思ってますよ?」
じ~っと見つめられながら、達也にとっての爆弾発言をお見舞いする美月は、持ち前の天然さを見せつける。思わぬ美月の情報によって、意を突かれた状態になり、本心から驚いた達也。まさか通学中だけでなく、学校内でもこの話が舞い込んでくるとは思っていなかったため、気分転換も兼ねていたこの課題は達也の思う通り、気休めになって終了する事は出来なかった。
チャイムが鳴り、昼休憩を迎えたため、この話は棚上げにする。(達也自身はもうこれ以上は効きたくなかったし、話題にすらされたくないと強く思っている。)
実習室を後にする際、女子からのひそひそ話が耳に入ってきたが、意識してスルーし、深雪達やエリカ達と昼食を約束しているため、美月と一緒に食堂へと向かうのであった。
お年頃の子供たちの集まりである学校では、一番話題になりそうだよね~。…ここで終わってくれたらいいけど、達也から思えば。