劇場版にぴったりな曲だよね~
一高に近い最寄駅から通学路を歩く深雪、水波は心配顔で横を歩く達也の顔を窺う。…水波は達也の背中越しから様子を窺う。二人がこのような態度をとるのは達也があまりにも疲労しきった顔をして、頭を抱える頻度が徐々に増えてきたからだ。
その理由は少しなら分かっている。深雪もさすがにどうかと思うから…。
ここまで登校するのに、達也を見て、通行人がチラチラ様子見したりして、ひそひそと会話したりするのを度々見かけていた。
だがこれくらいの事なら、日頃から街を歩いたりするとき注目され、同じように視線を向けられる事はあるので、気にしなければ何の障害もない。人の視線には耐性がある達也と深雪には、声を掛けて来なければスルー出来る。
…そう、声を掛けられなければ、だ。
なんと駅のホームで電車待ちしていたり、改札口で並んでいる時、声を掛けられたのだ。…達也が。
これには達也だけでなく、深雪も驚いた。声を掛けてきたのは全員女性。今の時間はちょうど学校の登校や会社への出勤ラッシュのため、その途中の女子生徒やOL風の若い年代に声を掛けられた。顔を物凄く真っ赤にして、緊張した面持ちで勇気を振り絞ってます!…という態度で皆、話しかけてくるのだ。
そんな状況を人が多く行き交う公共の場で何度もされる達也の身からすれば、非常に迷惑この上ない展開でしかない。呼び止められてなかなか進まないし、声を掛けられても気づかないふりで素通りすれば、後を追ってきて、先回りして行く手を塞いでくる。さすがの達也も不愉快さが溜まってくる一方だ。
いつもなら、注目を受けるのは深雪の方で、外出する時はいつも恋人のフリをして歩くため、さほど声を掛けられない。話しかけてきたとしても、すぐに達也が鋭い視線を一発お見舞いするだけで、そそくさと逃げていくのが関の山だ。
しかし、今日はそこまで甘くなかった。
普通達也の隣を歩く深雪を見れば、あまりにも自分達とは違う絶世の美女に根負けして、達也に話しかけるなんて真似は出来ない。…というより、深雪の方がどうしても目移りしてしまって、達也はおまけ程度に見られるのが、普段のパターンだ。
それをどういう訳か、御目の高いブランドを身に付けているイケメンに遭遇したような印象を持っているようで、いつもの効果はまるで発揮されなかった。
それどころか、話しかけられる内容が決まって……
「あの…! RYU様ですよね!!?
いつもテレビで拝見させていただいてます!! 歌も毎日聴いています!!
サ、サインください!! あ、あと握手もしてください!!」
……と、人間違い(実際は本人だが、そうだというはずもない)されての問いかけにため息も止まらない。
達也はすかさず、
「違います、人違いです。すみません、通らせてください。」
ときっぱり否定して、深雪の肩を抱いてその場を離れる。後をついて来ようとする人には、水波が間に入って、規制して付いてくる。
これが繰り返されながら通学していれば、達也が授業が始まる前に疲れ切るのも、頭痛を感じるのも納得できる。
だから、深雪も水波も気遣って、通学中の兄妹の会話も控えている。
……その分、深雪は達也に悪い虫が寄りついてこないようにいつもよりぴったりと達也にくっ付いて、腕もさりげなく持って、自分の存在感を今の内にという感じで見せつけていた。
これを好機にして達也を労わりつつも、嬉しそうな笑みを浮かべている深雪に、達也も疲れがゆっくりであるが癒されていっている気分になり、深雪の好きなようにさせる。
それを後ろから窺っている水波は兄妹とは思えない甘い空間を出しまくっている二人を恥ずかしく思うのと同時に、達也に言い寄っていた事実を目の当たりにした深雪がいつ嫉妬を爆発させ、周りを極寒の地へ還るかという恐怖からの震えを感じながら、達也とは違った疲労を水波も感じるのであった。
………余談だが、達也が人違いだと否定した後も、目をハートにして「RYU様が照れてる~♥」と浮かれる女子達が大勢発生し、その後も達也に近づく事はしなかったが、一定の距離を保ちながら、通学路のギリギリ分かれる所まで後ろを歩いたりして、萌える。
まさに、ハーレム状態を作りだした達也の変わった通学がこの日、起きたのであった。
すげ~な、達也! でも、似ているっていう感じなのに、RYUだと思って声を掛けてくる女子達もスゲーな!!
好きな人なら見分ける事もできるのか?