葉山さんから渡された封筒の中身を開いて、内容を見た達也は、訝しく思った。その手紙の内容とは、茶会への招待状だったのだ。
もちろん誰にと言えば達也に、だ。
達也は真夜に茶会というものに招待された事など一度もない。ましてや達也自身が宛名の手紙自体、もらうのも初めてなのだ。深雪宛てのパーティーの招待状が届いたり、その中の追伸で(つまりついで…という意味合いで)参加を認められる今までが当たり前だった。参加と言っても、紳士としてではなく、深雪のガーディアンとしてで、護衛の意味しかないが。
だから、ようやく次のアイドル活動の指令が来たのかと模索した所に、御茶会の招待状を真夜の側近的存在の葉山さんがわざわざ届けに来たという事態が達也に不審感を与えているのだった。
「…これは、何かの暗号ですか?葉山さん。」
そのためか、達也は精霊の眼を使って、隠された暗号や間接的な指令内容なのではないかと考え、無意識に葉山さんに問い掛けてしまった。
「いえ、その手紙の内容そのままでございます。 奥様直々から御受取りましたので、間違いは御座いません。」
「………深雪の同伴という事ではないのですか?」
「達也殿だけで御座います。 深雪様と見習いの水波はご招待は為されておりません。ですのでお茶会へは達也殿のみの参加でお願いいたします。」
「それは深雪達にはこの茶会の事は口外するなという事ですね。」
「はい、左様でございます。 深雪様がご出席なされますと、世間話もできませんので。」
「………『畏まりました、謹んでこの招待をお受けいたします。』…と、叔母上にお伝えしておいてください。」
さっきまで訝しく思い、目を細くして疑いの眼差しを向けていたが、葉山さんの返答で察知できたため、今は納得して、真夜に伝言を頼む達也。それを受け取り、葉山さんが軽く頭を下げる。
これを合図に達也は葉山さんに背を向けて、路地を出て、この場を後にする。いつもより時間が更に押しているため、再び高速ランニングをし始めた達也の走りはあまりの速さで分身らしきものが錯覚で見えるほどだった。
それを可笑しく思って、顔を少し歪めて笑いながら、葉山さんも達也とは反対側の路地の入口からこの場を後にした。その際に路地の魔法探知や視覚遮断、認識阻害魔法の解除をして、人を寄せつかないようにしていた魔法を無効にして、元に戻す。
「さて、私も帰りを首を長くして待っている奥様の元へ戻りますか。…達也殿の隠し撮り写真をおみやげにして。」
孫の喜ぶ顔を想像して微笑む老人のような風貌を見せながら、葉山さんは慎重に車を走らせて、秘密基地と化している四葉本家への帰路へ向かうのであった。
まさか、葉山さん!! お土産にそれを選ぶとは!!