魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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人生生きる中、苦難だってあるさ…。


仲間との衝突

 

 

 

 

 アスカとの魔法試合を終えたその夜。

 

 ROSEギルドのホールにはギルドメンバー全員が集合していた。重苦しい空気に加え、沈黙が続いていたが、やがてこの空気に耐えきれなくなったマサユキがいつもより明るい声でメンバーに話しかける。

 

 

 「みんな~!! 今日もお疲れ! みんなよく頑張ったと思うよ! 

  今日は完敗だったけど、これは次のステップになるからさ!」

 

 

 「何言ってるんだよ~。マサユキは。遅刻してきてたでしょ~!」

 

 

 「それは面目ない! でもその後は必死に魔法をぶちかましてやったぜ!!('▽‘)/」

 

 

 「当たり前の事をしたんだから、威張らんでいいんだ!!」

 

 

 マサユキの機転のお蔭で、徐々にみんなの雰囲気が元に戻る。アスカとの試合が初めてではないからかみんな、復活が早い。さっそく、今回の試合の分析と対策に乗り出した。

 モニターにはアスカとの試合の録画映像が映し出されており、データや戦略履歴を同時に表示しながら、検証する。

 

 

 「アスカはやっぱり桁外れの強力で超~~~~~~!! レアな魔法の起動式をほとんどの魔法師が持っているため、最初にそれを使用する事で反撃できないようにしているね。」

 

 

 「うちらだって課金ガチャをしてても、なかなか出ない代物を向こうは大量に持っているからね~。魔法に関してはこの際は仕方ないわ。」

 

 

 「しかも、その魔法を全員がかなり使いこんでいるから、相当な威力にまで発揮するよ。」

 

 

 「うん。勝負のカギを握るのは前衛が倒されて復活した後の攻撃!できれば、前衛は攻撃一本化したらいいと思う。アスカみたいに。」

 

 

 「でもさ、問題は防御アップとか魔法アップができなくなることだよな。あれって、前衛で使える魔法が多いじゃん?俺たち後衛には応援でカバーするしかないぜ?」

 

 

 「それにアスカは最初の一斉の一撃必殺全体魔法を撃ち終わっても、また全体魔法で攻撃してくる。前衛があっという間に同時に倒されることもあるよ。」

 

 

 「…分析の結果、アスカは全員9割は全体魔法を使用している。残りの一割はサイオン弾や『山津波』等の単体魔法を使用している。

  つまりアスカは全体魔法を重視しているという事だ。

  そしてみんなが言ったとおり、開始とともにこちらを潰しにかかる戦法だ。名づけるなら…、”攻撃は最大の防御”作戦だな。」

 

 

 「暁っち…。さすが! 的を得た作戦名ですね!」

 

 

 アスカとの試合の分析を兼て反省点を語るメンバー。だがただ一人だけ、その輪の中に入らず、今もアスカの実力に打ちのめされている者がいた。メンバーに加わって反省点を話していたちゃにゃんはそれに気づき、声を掛ける。

 

 

 「…ねぇ、くろちゃん? 今日はいい経験できたことだし…、あっちでみんなと次の試合での対策、考えない? 」

 

 

 「…何で、そんな事するの? 勝てるわけないのに。 あんな底知れない力見せつけられてどうやって勝つ気なんだよっ!!」

 

 

 答えていくうちにだんだん声を昂らせたくろちゃんの顔には涙が溢れていた。ちゃにゃんはなんて声を掛けたらいいか分からず、その場に立ち尽くす。くろちゃんの大声でくろちゃん達に注目していたみんなもどう答えたらいいかわからない。再び沈黙が流れる中、みんなの輪の中からミナホが飛び立ち、くろちゃんの元へ歩き出す。

 

 くろちゃんの前に立ったミナホはくろちゃんの肩を持ち上げ、立たせる。そして、次の瞬間、メンバー全員が予想していなかった事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バアジシシィィィィィィ~~~~~ンンンン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ミナホはくろちゃんの頬を手を振りかぶって思い切ってビンタしたっ!!

 

 

 あまりの光景に言葉を飲み込むギルドメンバー。思考が凍結し、成り行きを見守る。

 

 

 「うちが何で、くろちゃんを叩いたかわかる?」

 

 

 ミナホがビンタで頬が真っ赤に腫れ上がるくろちゃんを怒りの眼差しで見つめる。ミナホの問いかけに頭が追い付かず、言葉が出ない。それをミナホは答えられないと判断し、話を続ける。

 

 

 「今回の魔法試合…、アスカとの勝負に私たちが負けたのは…くろちゃん!君の所為だからだよ!」

 

 

 ミナホがくろちゃんに憤怒していた。いつもギルドのために一生懸命に過ごすミナホの元気な笑顔とは対照的だった。

 

 

 「なぜあの時! あんなことを言ったの!? 理由を答えなさい!」

 

 

 「…あの時?」

 

 

 辛うじて言葉を絞り出したくろちゃんの返答に更にミナホの怒りが燃え上がる。

 

 

 「分からない!? 試合終了の数分前にくろちゃんは言ったわよね?

 『だめだ…。 勝てない…。 もう諦めよう…。 こんなの勝てるはずがない』って。どういうつもりであの時ああ言ったのかってこっちが聞いてるの!!」

 

 

 ミナホは近くのテーブルを拳で強く叩いた。その手には軽く血が流れる。

 

 

 「あれ…は…、アスカの力を…、思い知って…。」

 

 

 「だから? だから何? そんなの理由になんてならないよ。あの時、ギルドの皆全員、最後の力を出して戦っていた。まだポイントは差があったけど、ぎりぎりまで攻撃魔法を撃ち出していたら、アスカのポイントを超えるか超えないかの境界線までいけてた。もしかしたら勝ってたかもしれない。勝てなくても、僅差でいい勝負もできた。」

 

 ミナホがつばを飲み込み、声を限界まで出し続ける。

 

 「でも、くろちゃんが諦めの言葉を呟いた事で、みんなが辛うじて保っていた戦意の糸がブチって切れた。みんなの心を折ったんだよ!!くろちゃんが!!」

 

 

 そこまでいうと、荒げていた息を整えるために呼吸を数回する。そこに、この場を見守っていたホムラと御神が二人の間に入って、仲介に入る。

 

 

 「まぁ、ミナホ、落ち着いて。 そこまで怒んなくても…」

 

 

 「だったら、御神っちは最後まで攻撃した? 諦めたよね?」

 

 

 「………………」

 

 

 ミナホの仲介に入った御神は否定しなかった。事実、くろちゃんの言葉を聞いて心が緩んだのは確かだからだ。その無言の肯定で、俯いていたくろちゃんの手が血が滲むほど強く握られる。

 

 

 「うちはね…、どんな時でも逃げないで、諦めないで、向き合ってほしいの!!今回の試合にはうちは最後まで戦って、今度こそ勝ってやるって目標を持ってた。そんな一生懸命に戦う人にくろちゃんはあの言葉を言った…。踏み潰された気分だった。うちの頑張りを全てなかったかのように言われた感じだった。 

  それだけでなく、未だに落ち込んで勝てるわけがないと決めつけている!そんな風に考える暇があるなら、せめて作り笑いでもいいから前を向いて笑ってろっ!!」

 

 

 ミナホがそう怒りのメッセージを送ってしばらくしてくろちゃんは玄関の扉を開け、外に出て行った。

 慌てて、サガットがちゃにゃんに後を追うように言って、ちゃにゃんがくろちゃんを追うために、外に出て行った。

 残されたメンバーはミナホに優しく声を掛ける。

 

 

 「何もあそこまで言わなくても…。」

 

 

 「うん。うちも自分の気持ちが入りすぎたかなって思った。でも、間違ったとは思ってない。」

 

 

 「…でも、もしくろちゃんが返ってこなかったら。」

 

 

 「うちはくろちゃんを信じるよ…。 これはくろちゃんが乗り越えないといけない大きな壁なんだ。それを乗り越えない限りはくろちゃんはここで立ち止まって今以上に強くはなれない。

  うちはね、まさやん。このギルドを支えるリーダーになったくろちゃんにはもっと大きく成長してほしいんだ。人生は苦難があって、幸福がある。それをくろちゃん達にも教えてあげたいんだ。」

 

 

 ミナホのギルドを想う一途な思いにギルド全員が感動する中、ミナホはくろちゃんとちゃにゃんが出て行った扉をずっと見つめ続けた。

 

 

 (くろちゃん…、頑張って…!!)

 

 

 「…でも、まぁ…、言い返してくれてもよかったんだけどな…。」

 

 

 ぼそっと、独り言をつぶやいてくろちゃん達の帰りを待つのだった。

 

 





クぅ~~!! うちは泣いてないからな!(泣)

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