輝きをみせている八雲の笑みをチョップで歪めたいという、感情を失くした達也でさえ感じた苛立ちを心の中で渦巻いていたが、更に深くなった挑発的な笑みで我に戻る。
もし実行すれば、八雲の思い通りになると直感したからだ。そのため、達也は八雲の言った事を肯定する事にした。
「師匠は地獄耳でも持っているのですか?」
「おや、今日は随分と素直に認めるんだね、達也君。」
「これ以上は師匠の思い通りになる気はありませんから。……それで、用件はなんですか?」
「ええ~、僕が興味だけで話しているとは考えないのかい?」
「師匠は興味を持っていても、それだけで人の内情にまで首を突っ込んでくる人ではないと思ってますから。」
もしそれ以外で調べて、自分の任務に差し支える様な真似をしたり、情報を提供するのなら、例え八雲であろうと、”消す”気だと、視線と言葉に隠された意味を告げる達也。その達也を見て、ふぅ~…とため息を大袈裟に吐いて、残念がっている顔で、八雲は降参する。
「そんな顔で睨まないでほしいな~、達也君。
分かったよ、君の言うとおり、色々あってね。世捨て人とはいっている身の上の僕だけど、今回は口出しさせてもらう事にしたよ。
…………君が今請け負っている任務は、下手をすれば日本の魔法師にとって大きなインパクトを与えかねない事態をもたらす事になる。」
さっきまでふざけている悪ガキの印象が強く出ていた八雲だったが、今は真剣な面持ちそのもので、八雲の言葉は警告だという事が物語っていた。
「達也君はまだ知らされていないようだけど、この任務には陰謀が渦巻いている。気を付けた方がいい。」
「……師匠もその陰謀とやらに関わっているのですか。」
「いや…、関わっていないよ。……今は、ね。」
「なぜその事を俺に話すのですか、風間さんには話しましたか?」
「その必要は無いと思うよ。彼らも君も、そろそろ知る事になると思うからね。僕から話すべきでもないだろうし、詳しく知りたいなら聞いてみるといいよ。」
誰に?…という事は達也は聞かなかった。
聞かなくても、誰に問い詰めればいいかはわかっている。
八雲の話を纏めると、このアイドルの任務には裏があって、その裏というものには、日本の魔法師を脅かすものである可能性があると。そして詳細な事は近々、風間たちと一緒に知る事になる。………という訳だ。
「ご親切に教えて頂きありがとうございます。…ですがそれだけではないですよね?
師匠は何を言いたいのでしょうか?」
ただ警告するだけで、秘密裏の任務の事を持ち出して話してくる訳がない。八雲は自分達や先祖代々育んできた忍術…信条とも言うべきものを大事にして生活している。それらが何らかの形で危険に巻き込まれそうになったり、そうなる前に対処する場合や同じ古式魔法師達に関わりがある場合等、基本直接的かつ間接的に八雲たちに危険が降りかからない限りは手伝ったり、手を貸したり、情報を提供することは無い。
その事を弁えている達也は、八雲たちに関連した事が裏で繋がっているのではと思い、場合によっては敵になる事も考慮し、それでいて確認のために首を突っ込んでくるのかと問い掛けたのだった。
今のうち聞けることは効いておきたい。
自分達の身に危険が降りかかるというのなら、達也にとってそれは、深雪の身も危険だという事。それは妹を護るという強い感情を持った達也には、それだけでも許しがたい事態だ。少しでも憂いは晴らしておいた方がいいに決まっている。
いつしか達也も鋭い視線を八雲にぶつける。その視線を直面で受けて立ち、八雲は空を仰ぎ見ながら、達也に告げた。
「…もしものときは、僕も手を貸すから。その時は遠慮なく頼ってきなさい。」
そう、達也に告げた八雲もまた、糸目である目を薄く開いて、遠くを見続けるのであった。
原作の裏側っぽくなってきたかな~。原作ともつじつま合わせしていかないと…。