「ハァ……、ありがとうございました。」
「うん、こちらこそ。いやぁ~、もう体術だけなら達也君に勝つのが厳しくなってきたね~。本当に最近は、ショック受けてるんだよ?これでもね。」
地面に座り込んで荒れた息を整える達也と、そんな達也を言葉とは裏返しにニマニマとした笑みを絶やさないで見下ろす八雲が寺の前にいた。
結局修業は、八雲が体術と幻術やらで組み合わせて達也の攻撃に対応した結果、あと一歩まで追い込む形と放ったが、元々設けていた時間内には八雲を無力化できずに修業は終わってしまったのだった。寺の鐘の音が鳴り、終了の合図が起きると、二人を観戦していた弟子たちは同じ同志たちと一緒に立ち上がり、拍手を送ると、颯爽とした動きで寺の中へと入ったり、敷地内の中を駆けて行った。それぞれ持ち場に戻っていったのだ。
残されたのは、八雲と達也の二人のみ。
時間内に八雲を無力化できなかったが、以前に比べてみると八雲が本気になりつつある現状に、逆に力をつけていると考える事で、”負け”た事は気にしない事にした。元々八雲はこの修行が一番得意分野だと言い切っているだけに、強い。だからその八雲を追いこんだというなら、まずは絶賛される功績とも言える。
しかし、頭では分かっていても、八雲の顔の表情と本音とのギャップのある言動を見てしまうと、少しだけ苛立つのは仕方ない。
「……そう言っているにしては、顔の笑みがまったく抜けてませんよ、師匠。」
「そうかい? それは残念。」
「本当に残念なら、そんなにオーバーな反応しません。」
「達也君も相変わらずつれないな~。そんな態度だと世の女性達のハートを鷲掴みにするなんて真似は出来ないよ~?これからが力の入れ越しだと思うんだけどね?」
ぴくっと達也の肩がほんの一瞬だけ、跳ねる。
八雲の言い方に何やら嫌な感じを感じ取ったからだ。
「いきなりなんですか?」
「ん? だって今、達也君、アイドルをしているんじゃないかい!
僕は世捨て人だけども、完全に遮断した訳ではないからね~。色々と僕の耳にも入って来るんだよ?」
「…………」
何を言えばいいのか、口籠る事になった達也。
達也がアイドルをする事はごく少数しか知らない事実。それをくくく…と笑っている八雲が突然口にした台詞で、情報が入っている事を理解するしかない状況に達也は遭遇している。この状況に、達也は何処から仕入れたのか…、本気で探りたくなったが、その興味を見せると、八雲が「そんなに知りたいのかい?」とからかう気満々なのは目に見えているため、浮上した興味をいったん棚上げにする必要があった。
「それでどうだい? CMに出てみて、有名になった気分は!?」
糸目の目が少し見開き、興味津々な声で語りかけてくる八雲に対し、脳天目掛けて手刀を振り降ろしたい気分になる達也だったのである。
こうして読むと、八雲とエリカって意外に気が合うかもしれないね~。