「姉さん? 何をしているの?」
ずっと情報端末とにらめっこしている姉に話しかける。
「あら、文弥。もう課題は終わったの? 早かったわね。」
「今回のは僕の得意分野でもあったからね。そんなに時間かからなかったよ。ところで姉さんの方は?
課題は終わらせていたし、そんなに凝視するほど難しい問題だった?」
そう、四高に通う双子の姉弟、黒羽亜夜子と文弥が学校の登校のために借りたマンションの一室で気楽に過ごしていた。今日は学校も休みで、二人は一般科目の課題を消化していた。ただし、亜夜子は既に大方終わらせていたため、先に一人でリビングで寛いでいて、今さっき文弥も終わらせて合流したんだが、いつもと様子の違う亜子を見て、話しかけたという訳だ。
「私がこの課題で悩むわけじゃないでしょう?」
「ははは、ごめん。じゃあなにしてるの?」
鋭い視線で非難的な雰囲気を醸し出す亜夜子が弟である文弥を睨む。それを苦笑して躱す文弥。文弥自身もそこまで本気で言ったわけじゃないが、文弥の予想は大きく外れたようだ。
二人がやっていた今回の課題は、この前一高で達也がマスコミや議員に堂々として見せたあの恒星炉実験の感想だったのだから。これには二人にとって願ってもいない最高の瞬間だった事は言うまでもないだろう。
その課題も達也への尊敬を綴ったり、四高生らしく分析もしてみたりしている。ちなみに文弥は、達也への憧れの念が爆発した結果、課題に取り込み過ぎて長引いていたのだ。
そんな課題を亜夜子が必死に難しい顔をしてまた取り組みなんてありえない。文弥は早めに自分の言葉を訂正した。
「ちょっと、ね。ずっと気になる事があったから、調べてもらっていたんだけど、その手掛かりがやっとつかめたみたい。その報告を読んでいただけよ。」
「え? なんか僕たちに命令が入ったの?」
「そうじゃないわ。これは単に私用目的だから。」
「部下達を私用で使うのはどうかと思うけど…。」
「あら、情報集めるにはこれくらい同然の権利よね?」
「ご当主様からの命令はないんだから、今は高校生として過ごしておこうよ。」
「…文弥は分かっていないわね~。 もしかしたらこれは私達にとって大事事になるわ…、きっと。もうのんびりと普通に過ごせるわけにはいかなくなるわよ~!!」
ため息を吐いたと思ったら、含み笑いをしてテーブルを離れ、文弥と対峙する。そして満面の作り笑顔を保ったまま、文弥の肩にポンッと手を置くのだった。
文弥は嫌な予感がした。
「あ、僕まだ、課題が終わっていないのがあったんだった!! 今からやって来るよ…!!」
「待ちなさい、文弥。 嘘の課題よりこっちは重要なんだから。それに私に楯突くなんて随分と生意気になったわね、ヤミちゃん?」
「!! や、止めて~~!!」
声を掛けるんじゃなかったと後悔しながら文弥は、亜夜子の手に掛かって、新調しておいた女装用の服達を着せられ、決めポーズも指定され、撮らされるのであった。
可愛い弟を弄るのは、姉の特権みたいなもの。