とうとう魔法試合の当日になった。
ROSEのみんなは真剣そのものの眼差しで最初の魔法試合を待っている。
第一試合は因縁の”アスカ”。そして第二試合は同じランクAの強豪ギルド”仮装舞踏会”どちらも気を抜くわけにはいかない試合だ。この試合の組み合わせが決まってからみんな自分たちのできる限りの準備をしてきた。今の愛用魔法を訓練でスキルアップしたり、アスカ専用作戦の見直しをしたりと準備してきた。くろちゃんとちゃにゃんにとっては初の”アスカ”との対戦だ。ギルドのみんなの入れこみ様も見てきたし、最強と評される帝国きっての魔法師ギルドだと聞いていたため、わくわくすると同時に不安でもあった。
その緊張しているくろちゃんをちゃにゃんが手を握って励ます。
「大丈夫。くろちゃんも頑張ってきたもの。最強の力を知るいい機会だし、勉強させてもらおう?
だけど…、負ける気はないよ!! お互いに全力で行こう!」
くろちゃんを励ますちゃにゃんの手は震えていた。くろちゃんは自分を励ますと同時にちゃにゃんも自分自身で励ましているんだなと理解した。そう思うと気分は楽になった。ちゃにゃんとは色々といつも過ごしてきた。今では、大事な親友だ。そんな親友と同じ気持ちで迎えるこの試合。ちゃにゃんがそばにいれば、何でもできるような気がした。
「…うん!! 絶対勝とう!!」
だから…、顔を上げたくろちゃんもちゃにゃんの顔も笑っていた。
ROSEの魔法試合開催場所は二試合とも帝都のマジックコロシアムだった。ROSEの面々は既に来ていた。まぁ、若干名は遠征の仕事や遅刻をしているが。本音を言えば、全員そろって戦いたかったが、仕方ない。
試合開始時刻の5分前にアスカがコロシアムに集結した。その中にはシンバもいた。その姿を確認して、くろちゃんとちゃにゃんは一層負けられないと思った。
そこへアスカの集団の中から一人こちらへ歩いてきた。そしてくろちゃんの前に立ち止まって話しかけてきた。
「君がROSEのギルドリーダーのくろちゃんだね? アスカのギルドリーダーのtakaだ。よろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
くろちゃんは差し出された手を握り返し、握手をする。それが終わると、takaは仲間たちの元へ帰っていった。
(あれが、"taka"…か。)
ずっと会いたかったtakaに会って、身体から放たれる偉大なオーラをその背を見つめながら感じていた。
takaはいつもイベントクエストでは必ず10位以内には入る凄腕の魔法師だ。彼がこの前のイベントで救援要請をした数は桁違い。そしてハイレベルの戦いをすることが多いが、参加者全員が応援に出かけるほどだ。人を集めるそのカリスマ性を持った魔法師にくろちゃんは会いたいと思っていた。それが叶ってうれしかった。ちなみにそのtakaと並ぶくらいの実力の持ち主であるsaradaもこのギルドの一員である。
アスカにはとにかく魔法力・体力ともに総合力が全員高い能力を持っている。一筋縄ではいかないのは分かっているが、戦う前から放棄するわけにはいかない。改めて気合を入れ直し、試合に臨む。
そして、マジバトがやってきて、試合開始時刻を宣言する。
「いよいよこの時が来たぜ~!! 両者とも頑張れよっ!!
では………はじめっ!!」
合図とともに、ROSEは早速アスカの能力を削りにかかる!!
ROSE前衛は自分達の防御力を上げにかかる。まずはそうしないと、アスカの攻撃を防ぎきれないからだ。そして、後衛はアスカの魔法力・防御力を下げる。アスカの魔法を抑える作戦だ。
しかし、それは不発に終わる。前衛が試合開始直後に全員倒されたからだ。防御力を上げる前に強力魔法を受け、一撃で沈む。それでも、難とは前衛のみんなの防御力を上げようと残りの魔法力を使う事で、復活し、仲間にも防御魔法を発動するが、一発展開するのがやっとで、すぐに倒される。後は時間を空けて復活し、攻撃するために残す。後衛は限界までアスカの防御力を削り、後はコンボパワーを稼ぐためにサイオン弾を放ち続ける。
これは予想されていたため、作戦通りだが、最初の攻撃で得たポイントを終盤で越えなければいけないため、厳しいのは事実だ。
一方、アスカはコンボパワーはあまり気にしていない。そもそもそれに頼るほどではないのだ。全員が総合力が高い上に、強力攻撃魔法を何個もCADに入れている。
開始直前に彼らは、アスカの前衛は強力攻撃魔法を撃ち込む。その魔法がこれまた凄い。
『限定型パンデモニック』、『重圧の破城槌』、『卒倒のドライミーティア』、『激震の共振破壊』、『絶対零度のニブルヘイム』等の全体攻撃魔法で一撃必殺を与えた。
これらの魔法は期間限定で発売されたモノやイベントや魔法試合等でもらうガチャではなく、相当の金銭で買わなければ手に入らないモノばかりだ。つまり普通の魔法師でも手に入れる事が難しい貴重な起動式である。超レアな起動式であるがゆえに、普通に市販されている『破城槌』や『ドライミーティア』、『共振破壊』より威力は何倍も発揮される。
これをまともに受ければ、立ってはいられないだろう。実際にROSEは開始と同時に前衛が倒された。
それからはROSEの主戦力を一時的に無力化したため、自分達の魔法力・防御力のアップやROSEの魔法力ダウンの補助魔法を発動する。『サーキュレーションバリア』・『堅固のパンツァー』で自分達の防御アップ。『ジャミング・フィールド』でROSEの魔法力をダウン。『ヴァーチャル・ビューイング』でROSEの防御力をダウン。
攻撃を止めたアスカにROSEが貯めたコンボパワーが切れない内に攻撃を開始する。
「みんな~!! 攻撃に移行して! コンボ隊も強攻撃に移行!!」
くろちゃんがアスカの動きを見て、攻撃開始を指示する。本当はもう少しコンボに回したかったが、時間とこちらの被害を考えてこれ以上は無理だと判断したのだ。
くろちゃんの指示で、復活待機していた前衛が復活し、自分達で一番威力が高い攻撃魔法を発動する。
御神は『ブレッシャー・クッション』を、ルーは『直列地雷』、『破城槌』を、サガットや暁彰、huka、ホムラも次々に攻撃をし出す。
後衛もサイオン弾から強攻撃魔法に変換して撃ち出す。そして、かなり粘ったアスカの前衛を全員倒す事ができた。そして、それを機に、前衛は気絶者に効果抜群の『地割れ』、後衛は同じく効果抜群の『地鳴り』で反撃をする。その攻撃魔法が功をなし、アスカとのポイント差を縮めていく。しかし、それでもまだ足りない。
『ヘビィ・メタル・バースト』や『フォノンメーザー』、『ディバイドレーザー』でさらに応戦。それでも全然届かない。アスカもコンボきれないように定期的に前衛が復活したり、後衛が攻撃したりしている。
そして、魔法試合終了5分前、
何とか踏みとどまり、ラストスパートを掛けたいくろちゃんは突然後衛から前衛に加わる。
『能動空中機雷』で攻撃する。そしてそれを後衛としてちゃにゃんがRDCから教わった『濃霧』を使って援護する。これで相手の攻撃を避けられると思った。しかし、突如くろちゃんの目の前に人影が現れる。
その人影はシンバだった。
シンバは濃霧で視界を塞ぐ前に動き出し、戦闘魔法師の持ち味ともいえる相手の位置を気配で把握し、くろちゃんの目の前に飛び出した。突然の襲撃に驚くくろちゃん。防御シールドとしての『能動空中機雷』をCADにインストールしているが、シンバとの距離がたったの2mでは近づきすぎて使えない。
くろちゃんは防御魔法を使う事が出来ずにシンバの移動・加重系統魔法の『登龍』によって重力と慣性を上乗せされた双剣を受けた。あまりにも破壊力のある攻撃を受け、くろちゃんは重傷を負った。
この時には既に圧倒的なポイントの差があり、逆転は不可能だった。
それを知ったくろちゃんは、痛みと試合の現状にただ茫然と座っていた。そしてROSEにしか聞こえない声量で言った。
「だめだ…。 勝てない…。 もう諦めよう…。 こんなの勝てるはずがない。」
その言葉を言った2分後に試合終了の合図のブザーが鳴る。
「そこまで! 第一試合の魔法試合、勝者はアスカ~~!!」
マジバトが盛大に勝者を発表する。自分達の勝利に喜び合うアスカ。それとは正反対に、肩を落とすROSE。
試合が終了し、回復魔法をそれぞれするが、このアスカとの試合で受けたダメージ(主に精神ダメージ)が次の”仮装舞踏会”との試合にも縺れ込み、今日の魔法試合をROSEは完敗で終了した。
くろちゃんは最強ギルド”アスカ”の実力を痛いほど、その身をもって経験した。
強豪と戦った後って、なんだか心がざわつくよね。