「ふふふ、さすが達也さんだわ~!! 私の見立て通り♥」
甘い声で達也を絶賛するのは、世界でも最強の魔法師だと言われ、最強の魔法とも言える「流星群」を唯一使える妖艶な美女。公開されている年齢より若く見え、三十歳程度しか見えないその風貌が彼女の異名を更に信憑性を持たせていた。その異名を持つその美女は、世界中の魔法師が知らないことは無いとも言える四葉家現当主、四葉真夜だ。
しかし……。
「でも達也さんと一緒に出演しているこの子…、羨ましすぎるわ~。私だって踊ってみたかったわ~。しかも達也さんに近距離で甘い言葉を言ってもらえるなんて…。いきなりこの子だけ贅沢じゃない? そう思うでしょ?葉山さん。」
今ここにいる真夜は、世界中で恐れられている四葉家を背負う魔女の姿とは全くかけ離れていて、威厳は何処にもなかった。あるのはアイドルオタクが醸し出すダメ感だけだった。
身に付けている服装もいつものワインレッドのワンピースの上から、手作りの達也の写真プリント入りの半被に、頭には可愛く結んだ”RYU様♥命”と書かれたハチマチ、腕にはこれまた手作りの達也うちわを持っていた。そして視線は世間で話題の達也のCMがリピートされ続けていた。
そんな姿の真夜に尋ねられた葉山さんは、恭しく一礼してから、答える。
「無理もありません、達也殿の魅力を引き立てるためには相手方もそれなりに見栄えがいいものにしなくてはなりませんから。」
ここは達也に株を持たせておく葉山さんのナイスフォロー?のお蔭で、真夜の不満も解消される。
「葉山さん、分かっているわね。さすが四葉家使用人序列一位なだけあるわ。
確かにこの子は芸能界で生きてきただけあって演技力もあるけど、達也さんに上の空なのは本心だって私にはバレバレよ。 女優としてはまだまだみたいね。女は秘密を多く持っていた方が自分の魅力にもつながるのよ。」
葉山さんは「奥様の場合は今暴露されているこの状況が自分以外には秘密であり、この秘密こそが真夜の魅力を引き立てているのか」と、真夜の理屈を心の中で置き換えてみるのだった。
「ところで、葉山さん。
例のものは手配しているのかしら?」
「はい、奥様のご命令通り、発売開始した直後に限定盤シャンプーは四分の一を残し、買い占めました。限定盤の特典は全てこちらに。なお、シャンプーはメイド達へと支給しております。」
葉山さんがいつの間に手元に出したのか、回収しておいた大量の特典の入った袋を真夜に差し出す。
真夜は満面の笑みでそれを受け取り、さっそく選別していく。
「えっと、こちらは観賞用に、保存用…。サイン用…。……それから」
同じものでも中身が違うものもあり、楽しそうに開封する真夜を見て、達也ファン魂に火をついた真夜を止められそうにないと苦笑する葉山さんの後ろには、昨日から溜まっている仕事の書類や研究資料等が積み上がっていたのであった。
時間軸は大体ほのか&雫編の翌日かな?