佐伯から呼び出しを受けた風間は、佐伯が待つ個室へ入り、佐伯からもたらされた指令を受ける。
「なるほど。 四葉から連絡が入りましたか。」
「ああ。 そこで風間…、お前に出していた彼の監視の件は通常へ戻して構わん。…いや、通常へ戻せ。」
「それはすぐにでも。 私も四葉と正面衝突は行いたくないですから。」
佐伯が命令へと切り返した意図を当てた風間に対し、佐伯はムッとした顔を作らず、全くその通りだと言わんばかりの頷きを見せていた。二人とも四葉の悪名を知っていて、怯えている…というのも多少はあるが、力の入れた達也の監視によって、四葉の機嫌を損ねて国防軍や日本政府との関係に大きく左右させるきっかけになる事を危惧したのだ。
もしそうなれば、達也との今の関係も消滅し、達也が敵に回るだろう。(”敵に回る可能性がある”と言わないのは、親しい間柄だとしても、それが敵にならないという証明にはならないし、達也が一番大事なのは妹である深雪ただ一人だ。その妹である深雪のためなら、自分の立場がない四葉側に従って戦う事だって考えられる。…というより敵に回る可能性が無いという考え方よりよほど信憑性がある。
達也以上の戦力が国防軍にも、ましてや独立魔装大隊にもない今の段階では、四葉との現状は維持しておきたいのだった。
「ところで、風間には申し訳ないが、今度四葉殿を訪ねていってほしい。同行者は藤林だけだ。今回の事で直接話があるそうだ。」
「藤林もですか? それはまた驚きました。確か四葉殿はまだ藤林と面識を持たれていない筈。」
「ああ、私も記憶している限り、公式の場でもお互いに顔を合わせていないだろう。」
「それなのに、藤林を本家へ招くのですか?」
「私もそこは考え直した方がいいと思ったのだが、四葉殿は何やら藤林を使って何かをしようとしている。こちらとしても大亜連合の動向を知る手掛かりになるのなら、手を貸してみてもよいとは思っているが…。」
「藤林は佐伯閣下を政敵だと見ているあの九島烈の孫ですから。秘密主義を取り、同じ十師族の他家にも内情を見せない四葉が本家へ招けば、情報漏れは考えても不思議ではないです。例え藤林自身が諜報を画策しなくても、九島家なら命じる事も可能なわけですしな。」
「その通りだな。しかし、追って日時指定でもう一度連絡すると、言っていた。その時にでも詳細な話をきかせてくれるだろう。あの女がここまで考えてない訳がない。」
「佐伯閣下の仰る通りだと思います。
……では藤林にはどう伝えましょうか?」
「新たな任務に就いてもらう予定だから、覚悟はしておくように…と告げておいてくれ。まだ四葉の名を出さずに…、難しいか。
今の任務を終了させるときにやはり四葉の名が出てしまうだろうし、もしかしたら既にこの事を九島烈に話しているかもしれない。」
「なら、私が違う理由をつけて、藤林には通常業務にあたるようにしておきます。」
「そうしてもらうと助かる。では早速頼む。」
佐伯と風間が打ち合わせを終わらせ、風間を帰させる。
風間の姿をドアの向こうに消えるまで見送った佐伯は、中断していた報告書に視線を再び戻す。
そして、風間は再び独立魔装大隊の待機室へと向かい、こちらに来る前に話していた響子たちに回線を繋げるのであった。
入り組んだ十師族の関係もあったね。そうだよ、秘密基地みたいな四葉家本家の場所を響子に知らせて大丈夫か?