深雪が魔法を暴走させてしまった事は理解できたので、達也は今度時間が空いたら、深雪を連れて外出するかと頭の中のやることリストの優先順位のトップに書き加える。
「ところで、よく深雪を止める事が出来たな、水波。深雪の干渉力は高いからな。」
水波に感心した顔で褒める達也。これこそが一番驚いた事だった。還ってきた時のリビングの違和感というのは、リビング内の空気で、季節的に程よい暖かさになったというのに、若干室内が湿っていた。ヒンヤリともせず、それでいて温かくもなく…と言ったリビングだったため、達也は妙な違和感を覚えたのであった。しかし、かなり前に深雪が暴走していたのなら、既に湿度も元通りになっているはずだし、ついさっきなら寒さが肌に直接伝わってくるはずだ。しかしそれらはなく、何とも言えない室内温度である。(寒さが残っていたら、達也なら入った瞬間でわかっただろう。)だから計算するに、数時間前の出来事だと仮定できるが、そもそも深雪の暴走を止めれるほど水波は持ち合わせていない。魔法師としては達也よりも優れているが(普通の魔法師の評価で言えばだ。)、深雪の桁違いの魔法力と比べると大差がある。その状態で深雪の精神を正常に戻した水波に、達也が褒めるのを当然であった。
「いえ、深雪様はご自分で何とか…。私は何も。」
首を横に振り、否定する水波。目も泳いでいてまだ何かを隠しているのは達也も考えるほどなく気付いたが、これ以上水波に問いただすとこちらが責めているように囚われるかもしれないと思い、追及はしないでおく事にした。水波も一日中深雪と過ごしていたので、疲れているかもしれない。そう思った達也がこれで話はおしまいだと告げたその時、タイミングを見計らったかのように深雪がキッチンからお盆にコーヒーを淹れて戻ってきた。
「お兄様、コーヒーが出来上がりました。どうぞ、お召し上がりください。」
髪を耳にかけ、達也の前のテーブルにコーヒーを丁寧に置く。そして深雪はその隣で同じく自分の分のコーヒーを飲み始めた。達也も一口飲むと、口元をほころばせ、深雪を見て、微笑む。
「ありがとう、深雪。今日も美味いよ。」
「ありがとうございます、お兄様…。深雪もお兄様に喜んでいただけて嬉しいです。」
頬を赤らめ、うっとりする深雪を可愛いなと思いながら、水波との約束を告げてみる。ちなみに水波は二人の後ろで控えている。
「深雪、今日はすまなかった。もう少し早めに帰るつもりが色々立て込んでしまってな。深雪には寂しい思いをさせたな。」
「いえ! そんな事は! お兄様がご活躍される事は、深雪にとってはとても光栄な事なのです!」
「なら、寂しくなかったのか?」
「……いえ、寂しかったです。やはりお兄様と一緒にいたいです…。」
達也に問い掛けられ、恥ずかしいのと、嬉しいのと色々な感情が深雪の心の中に渦巻く。しかし、深雪は達也に嘘をいう訳もなく、正直に話した。深雪の本音を聞いて、達也は深雪の頭を優しく撫でながら言い聞かせるように話す。
「そうか。なら深雪を寂しがらせたお詫びに、今から俺に甘えてもいいぞ?」
「え!? お兄様に…甘える……。」
唐突な展開に深雪は驚くが、それもすぐに収まり、両手で真っ赤になった頬を包むと、身をねじらせてどこかの夢の世界へと意識を向けてしまう。それを見て、達也は深雪が想像している事となにか決定的に違っているような気がしたが、ふと沸き起こった思考は横に置く事にした。
「ああ…、俺ができる範囲でだがな。その代わり、夕食作りは水波に任せるんだ。」
「お兄様が仰るのなら深雪は夕食は作りませんわ。水波ちゃん、後は任せたわよ? では私はその間お兄様とコーヒーを飲んでゆったりとお待ちしております。」
笑顔で後ろに控えている水波にそう告げると、早速手の空いている達也の左腕に掴み、更に拳一つ分空けていた距離をゼロ距離に詰める。とても嬉しそうに肩に顔を寄せる深雪を見下ろし、達也は自分で言ったわけだが、苦笑し、深雪の隙にさせる事にした。そして視線を水波に向け、合図を送る。
(ありがとうございました、達也様。)
心の中で達也にお礼を言うと、水波は甘々空間を作りだしている二人から離れるために颯爽とキッチンへ逃げていくのであった。
めでたしめでたし…じゃないよ!! まだ深雪の暴走が何で止まったのかとか描いてないからね!
次回で終わらせる…。