「か、帰りたい…。でも…」
まさかここまでの壮絶な出来事に発展するとは思っていなかった美月は、既に心は折れかかっていた。還りたい気持ちが大半を占めていたが、来て早々の出来事に圧倒されて何もできていないのが腑に落ちず、あれに参加するべきかどうか迷っているのだった。
しかし今、あの中に入れば、間違いなく怪我では済まない状況が予知できるか故になかなか足が前に進まない。こういう状況の場合、どちらかというと美月は仲裁に入る側だ。運動神経は普通レベルであり、とても太刀打ちできるような力を発揮する事は出来ない。(戦いの参加者の中には一見華奢な身体つきをしていて、大人しそうな女性もいたが、限定商品を巡るその眼や表情はかけ離れた容貌をしている。火事場の馬鹿力…ではないが、いつもよりパワーアップしているのは定かだと言える。)
やはりどうしてもカオスな空間に入れそうにない美月は、せめてその商品を紹介しているCMを見ようと、カオス空間の隣に設置されているモニターに視線を映し、鑑賞する事にした。
初めにSUNが流れたが、美月は一瞬で惹き込まれた。身近でも起きそうな状況でのストーリーで、同じ世代の共感を感じさせるもので、思わず脳裏にCMに映る少女を自分に変えて再生する。告白シーンでのカーテンに隠れてのキスなんて、最高すぎて顔を真っ赤にして硬直した。恥ずかしすぎて真っ赤になっている顔を何とか隠そうとして手で頬を隠す。誰も知り合いはいないが、なんとなく今の自分を見られたくない気持ちがあったからだ。
(でも、これで分かりました。 皆さん、このCMを見てときめいたんですね。だからこんなに限定商品に群がって…。)
カオスな状況を作りだしている女性達の行動の動機を知り、今までただ彼女らが怖い印象しかなかったが、なんだか親近感を少し感じるようになった。そして次にMOONが流れると…、
「……あれ? ……達也さん? ………違いますよね?」
素敵な舞踏会で男女のダンスシーンも魅力的で憧れるシチュエーションが目にはいる。特に二人きりになった後からの流れはドキドキしっぱなしだ。
しかし、それと同時にCMに映る青年がなぜか達也に似ていて、頭に疑問が浮かび上がる。
「……やっぱり達也さんではないですね。 達也さんはもっと大人びていて、怖さもありますから。」
褒めているようだが、達也がいれば「何だ?怖いって?」と訝しく思うだろう。美月は達也がCMに出る訳がないと一年間で知った達也の事を考え、すぐに疑問を自分で解消する。
(それにしても達也さんに似てますね。 ですが、達也さんよりもワイルド感があって、それでいてよりミステリアスがあります。)
CMに出ているRYUを凝視しながら、驚いた反応で激しくなった鼓動を落ち着かせる。
そして二つのCMを見て、美月はSUNを気に入った。
だから、SUNを記念に買っておこうかなという勇気へつながった。
だけど、再び見たセール場所には、残りが少なくなってきたからか、奪い合いが多数置き、喧嘩も多数勃発していた。
「ど、どうしよう…。 」
あの中を潜り抜けていく身体能力は持っていない美月は、やはり諦めるしかないかと考え始めたその時、美月の耳に知っている声が聞こえてきた。
「…あれ~? 美月じゃない? 如何したのよ、こんなところで。」
振り向いて、声がした方を見た美月は、友人の登場に嬉しさが込み上げてくるのであった。
次で美月編終わり。
美月とばったり会うのは誰だろう~?