やっとたどり着いた目的の場所には、とんでもない光景が広がっていた。
それは…、大勢の人達で一つのコーナーを囲んで群がり、壮絶な戦いを繰り出していたのだ。その全員が女性であり、目に必死さと貪欲とも言える執着心が帯びていて、獲物を必ず手に入れようとするハイエナ的表情を覗かせていた。
「ちょっと~~!! これは先に私が手にしていたんだから!! 離しなさいよ~!!」
「何を言ってるのよ!! そっちが後から掴んできたんじゃない!! 横取りしようなんてそうはいかないんだからね!!」
「同じものなのだから、どれでもいいとは思うんですけど…。」
「「同じじゃないわ!!」」
「キャンペーン限定でのRYU・翔琉のボイス特典コード付きだし、それぞれ台詞も違うのよ!! どれを選ぶかによって全くこれからの人生が変わるんだから!!」
「そうよ!!それにパッケージだって、今後販売される通常版とは異なって、ゴージャスだし、SUN・MOONそれぞれにRYUと翔琉の決めポーズがプリントされているのよ!しかもポーズも様々!!」
「さらに!! RYUも翔琉もCMバージョンの新曲MVを配信する事に決まったのよ!だけど、それはSUNとMOONの売れ行き次第! 」
「同時にCM投票もあるし、その結果でどちらが配信するか決まる…!つまり私達ファンがどれだけ貢ぐかによって勝敗を記するのよ!」
「そうそう!! 私達が命運をかけてるんだから! なんとしてもRYU様のために私が…!!」
「そうはいかせない! RYU様に褒めてもらうのは私なんだから!!」
「RYUより翔琉の方がいいもんね~!! こっちだって負けないんだから!!」
「よくも言ったわね!! RYU様の魅力を分からないなんて馬鹿な女!」
「何ですって!! 」
「…今の内に!!」
「「ああ~~~!!!」」
「それは私のよ~!!」
「返しなさい!!」
「早いもの勝ちなのよ! 喧嘩していたあんた達が悪いんでしょ!」
「図々しいわね! さっさと渡しなさい!大体あなたは十分持っているでしょ! 私なんてまだ三個しか持っていないんだから!」
「私なんてまだ一個よ! 平等に振りまくべきでしょ!」
「何を言ってるんだか! さっきまでたくさんかごの中に入れていたじゃない!?私、見てたんだから! 連れに手に入れた物を渡してレジに持って行ってもらって買っているあんた達が言える事じゃないわ! 」
…………もう、勢いありまくるバーゲンセールではなく、喧嘩と奪い合い、殺気が立ち込める女達の仁義なき戦闘がこうして巻き起こる非常なカオス空間がそこにあった。
だから美月もこのカオスを見て、初めは苦笑していたが、ヒートアップしていく戦闘に今はただ、顔の血の気が引き、オロオロし始める。
ここまでくれば、美月でなくても、このカオス空間に参戦したいとは思わないだろう…。特に男性陣は…。
しかし、そんな甘いカオスではなかった。
近くを通る男性達が異様な女達の言動を口にすると、この時は一騎団結して、その男性相手にジト目を向ける。一斉に女達の鋭くなったジト目の集中砲火を受け、慌ててそそくさと走り去る。
そしてこのセールの情報がネットにアップされ、見物がてらにやってきた人が他の階や周りからカオス空間を鑑賞する。そして熾烈な戦いが起きている中に参戦する人も現れ、もう一種の祭り状態になる。
いつのまにか大勢に囲まれる中で立っていた美月は、このカオスな状況が理解できず、心の中で助けを求めるのであった…。
嫌~! 面識ない相手同士で協力し合ってバーゲンする光景も見た事はあるけど、逆も然り。
こういう時、巻き込まれまいと遠くから本を盾代わりに見てたな~。……後で、結局巻き込まれるんだけど。
美月~!頑張るんだ!