高層ビルが立ち並ぶ街へとやってきた美月は、あたりをキョロキョロしながら目的地を目指す。時折、気分悪そうによろめくが、その都度、歩道の端へと移動し、休憩する。どこか持病があるという訳ではない。ただ多くの人が行き交う街中を歩いたので、その人混みの雰囲気に酔ったのだ。美月はエリカのように運動が好きとか、身体を動かしたり、休日は外出して遊びまくるといったいわゆるアウトドアな性格ではない。その反対のインドア派とも言える。だから休日と言ってもそんなに家から出る事もなく、大好きな漫画や絵を描いたり、小説を読んだり、お菓子作りしたりと文化少女の趣味を満喫しているのだ。外出すると言っても、近くの図書館や本屋で本を買って、喫茶店で寛ぎながら本を読むのが落ち着くほどだ。
あまり大勢の人に囲まれるのは躊躇する美月で、特殊な目を持っているのもあり、人の気配や雰囲気にはかなり敏感で、それが合わさって酔ってしまう。
でもさすが美月というべきか、慣れているようですぐに鞄から酔い止め薬を取りだし、呑みこむ。そしてしばらく日陰で休んだら、また歩き出した。
これを数度繰り返して目的地へ向かっている美月が大変な思いをしてまで向かう理由は何か?美月を突き動かす信念とは一体何なのか…。
個室電車に乗って、街に来てからかなり経った時間…。
ようやく目的地に着いた美月。普通に歩けば十数分だが、度々止まって休憩した事で、一時間は超えていた。それでもやっとの思いでやってきた場所はつい最近オープンしたばかりのショッピングモールだった。
ここには、ありとあらゆる商品や食品が販売されており、有名な店が多く入っている。屋上には子供たちのためのアトラクション広場も設けられており、観覧車もある。今人気のショッピングモールだ。なぜここに美月は来たのかというと、ここにしか今はないものを見に来たのだ。
それは……
「シャンプー『プリンセス』SUN・MOON 大量販売セール実施中!!」
である。
実は、美月が外出する前に届いたメールは美術部の先輩からで、この近くではここでしか販売されていない新商品があるという情報と、絶対に見ておかなければ損!!見ていれば今後の私達の部活動に多大な進歩をもたらしてくれるはず!!…というコメントが添えられていたのだ。
この文面を見て、美月は今詰まっている漫画のアイデアに繋がるかもしれないという期待と先輩がここまで絶賛する事に驚愕し、見てみたいといる興味から急遽外出したという訳だ。
しかし、来てみたはいいが、美月は来て早々自分には場違いで、無謀な場所だと認識するのだった。
困惑する表情で見つめる先には、美月ならそう思っても仕方ない展開が広がっていたからだ…。
仲のいい先輩からの情報で、頑張ってきた美月が早くも後悔する事っていったい!!?