魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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もしかしたら裏事が分かるかも?


葉山の疑問

 

 

 

 

 

 

 「達也殿が早速結果を出してくれたので、あぶり出しも順調です。」

 

 

 「本当に達也さんはトラブルに愛される資質があるけど、良い運も運んで来てくれるのね。当初の予定より進んでいるのではなくて?」

 

 

 「はい、お蔭で人員導入の編成が予定より削減できましたし、達也殿の芸能活動も問題なく事を運べます。」

 

 

 「まさかいきなり達也さんに仕事が舞い込むとは思わなかったけど、大きな収穫は取れたわね。」

 

 

 真夜と葉山さんが意味深な会話をする。真夜は今回の任務で予想以上に成果が出ている事態に薄く笑みを浮かべる。葉山さんから紅茶を受け取り、喉を潤しながら葉山さんが何か言いたそうにしているので、視線で先を続けるように命令する。

 

 葉山さんは真夜からの許可を得て、一礼し、口を開く。

 

 

 「ところで、奥様はなぜ達也殿の最初の仕事としてあのCMのオファーを引き受ける事をお許しになられたのですか?」

 

 

 「なぜというと?」

 

 

 葉山さんが何を言いたいのか理解できないから問い掛けている…訳ではなく、ただ単に葉山さんが何を考えてそう聞いてくるのか知りたいという欲求が生まれたためだ。

 

 

 「はい、当初の予定では、有名な音楽番組にて達也殿…RYU殿を出演させ、デビュー曲を披露させて、芸能界全体にRYU殿の存在を認識させる目的でした。そこからRYU殿に接触してくる者から調べる段取りだったはずです。」

 

 

 「そうね、確かにその予定だったわね。」

 

 

 「ですが、その予定を早めて、突然舞い込んできたCM出演依頼をお受けになられた事が少々気になったのです。確かにこのオファーをしてきた者の調べはついていますが、今後の事を考えると警戒して距離を取り、間接的に関係を持った方がよろしかったのではないでしょうか?」

 

 

 葉山さんが真夜に話しているのは、CMオファーをしてきた榊社長の事だ。

 

 元々、達也…じゃなくて、RYUへの芸能活動における制限や届いたオファーの選定は金星社長との提携を結ぶ際に交わした契約事項で、金星社長経由で真夜に伝わる事になっている。そしてどの仕事をRYUにさせるのかという決定権は真夜にあるのだ。金星社長はどんな仕事依頼が入ったのかを送信するだけで、RYUの仕事に対する決定権は持ち合わせていない。持っているのは美晴だけだ。ただし、RYUと美晴が出演する場合も真夜が選定するのであった。

 

 この処置は、金星社長が手当たり次第に仕事を引き受けさせないためであり、金星社長と真夜との権力の差を知らしめるためでもある。しかし一番の理由は、達也のスケジュール管理をさせる事で情報が漏れないようにする事と達也が成し遂げられる仕事を選別する事である。

 

 芸能関係のものが苦手である達也にアイドルをしてもらうにあたり、不都合な展開が先読みできそうな事を事前に払い除ける事でアイドルとして一気に駆け上らせるのが狙いだ。

 

 この案は葉山さんが契約書を作成する時、真夜本人が言いだした事だった。それなのに、CM出演のオファーが来た際は、選別する前に一拍沈黙してすぐに引き受ける事を決定したのだ。

 

 真夜に忠誠を誓っている葉山さんは、真夜の命令や決定を非難したり、断ったりすることは無い。命令された事はどんな些細な事でも主の命に最善を尽くす。真夜の命は絶対だと心の底まで刻まれている。

 しかし、やはり疑問を感じてしまう。この疑問が解消されなければ、今後の動き方に大きく左右してしまう失敗を犯してしまうのではないかと危惧しているためだ。

 

 葉山さんの懸念している事は最もであり、それは真夜も理解していた。

 

 

 「葉山さんがそう思うのも無理はないわね。私に仕えている身としては、任務を遂行する上で判断を違えたり、遅れてしまえばミスを生み、計画に差し支える事だってある状況が目の前にあったら、私の利益を喪失させないために最善の策を考えるのは当然よね…。」

 

 

 葉山さんは黙って、真夜の言葉に耳を傾ける。

 

 

 「葉山さん、貴方が私のために言ってくれているのは嬉しいですよ?でも、世間を相手にするのですから、見極めは重要です。」

 

 

 そう言うと、さっきまで呼んでいた書類を取りだし、葉山さんに渡す。それを受け取り、読んだ葉山さんは無表情になるのであった。

 

 

 




主の真意を見誤ったらまずいもんね~。

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