魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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こっそり帰ってきた達也に迫るものが…!


温かい差し入れ

 

 

 

 

 

 

 隠し部屋から出た達也が見慣れた部屋を見渡して異常がないかを確認する。そこは、達也が魔法研究やCAD調整をする地下の研究室だった。

 そう、研究室の隣に隠し部屋を作っていた達也は、深雪に気づかれる事なく、地下へと降り、外出できたのだ。

 達也は夕食後、深雪と会話を楽しんだ後は日課の魔法研究に夜遅くまで取りかかるため、地下室に下りればしばらく一人になる時間が確保できる。これのメリットとしては、深雪や水波にあの恥ずかしい任務の事を話さずに外に出掛けられるという事、そして日頃の日常を一切変えることなく過ごせられる事だ。

 出かける度に深雪に心配させる事もないし、深雪の傍に水波もいるしでボディガードの方にもゆとりができる。ただし完全に任せてはいなくて、無意識では精霊の眼で深雪を見守り続けている。

 しかし、メリットがあれば、デメリットもある訳で、これには少しの無茶や行動が必要になってくるのだ。

 

 達也にとって一番大事なのは、深雪だ。例え真夜からの任務でも深雪には遠く及ばない。深雪との何気ない普通の日常は達也の精神に癒しを与えるほど、重要な事だ。そのため、深雪の言動を尊重するのは妹を愛する兄の務めだと思っている達也は、深雪の行いを尊重し、なるべく合わせる事に決めた。

 その行いというのが、毎日日付が変わるギリギリの時刻に達也へコーヒーの差し入れをする事だ。いつも地下室で研究を行っている達也へ、深雪が丹精込めたコーヒーを差し入れるのが深雪にとっては生き甲斐とも言える神聖な儀式なのだ。達也も深雪の淹れるコーヒーは好きで、二人で過ごすうちにこれが当たり前になっていた。この深雪のコーヒーの差し入れに間に合うように、達也は芸能活動して帰ってきたのだ。わずか数時間しか抜け出せないため、失敗で時間がつぶれないように予習もしておいたお蔭で事も上手く運び、現在に至る。

 

 

 

 達也は研究データが入っている端末を起動し、CAD調整機器も起動させておく。そして時刻を確認し、そろそろ深雪が差し入れを持ってくる時だと把握し、服に乱れがないか、不自然なところはないかも確認し、起動した端末から実験データやFLT開発第三課からのメール報告等も開き、いつもの目にも止まらないスピードでキーボードの上で指を走らせていく。

 深雪は達也がずっと研究していたと思っているので、そのように振る舞わないといけない。それに遅れた分を取り戻すようにキーボードを走る指にも力が入っている。

 

 それから数分後、地下室の階段を下りてくる深雪の気配を感じ取り、達也はいよいよかと内心乗り切れるか若干不安な気持ちを抱えながらも、楽しみにしていた深雪の差し入れが来て、喜ぶ。

 

 

 コンコン…、

 

 

 「お兄様、深雪です。開けていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 深雪が入室の許可を扉越しから問いかけてくる。達也はもちろん深雪を無視する訳もなく、扉の開閉スイッチを押し、深雪の入室を許可する。

 扉が開き、深雪がコーヒーと茶菓子を盆に乗せて入ってきた。

 

 

 「失礼します、お兄様、コーヒーをお持ちいたしました。」

 

 

 「ああ、ありがとう、深雪。今日は茶菓子も用意してくれたんだな。」

 

 

 「はい、先程お話ししている時にお出ししようとして、すっかりお兄様とのお話に夢中になってしまって、忘れてしまったんです。ですから、夜遅くにお出ししてもいいのか迷ったのですが、ぜひ食べてもらいたくて、持ってまいりました。」

 

 

 「いや、問題ないよ。深雪が作ってくれたんだから、有難く食べさせてもらうよ。」

 

 

 「深雪が作ったとなぜお分かりに?」

 

 

 「深雪が手作りした時は、必ず俺に一番に食べさせてくれるだろ?それに茶菓子の皿もコーヒーカップも深雪が俺に手作りを渡す際に使っているものだからな。」

 

 

 達也に指摘された事が深雪は気付いていなかったらしく、改めて食器を確認する。達也に食べてもらうのだから、食器もこだわり抜いた最高品にしなければいけないという究極のブラコンから生じた出来事だっただけに、それが意識することなく行動に出ていた事に羞恥もあるが、何より身体にしみついている達也への愛情を実感して喜ぶ深雪だった。

 

 

 「では、頂く。」

 

 

 そんな恥ずかしそうにしながらも口元が綻んでいる深雪の表情を見て、深雪が淹れてくれたコーヒーを口にする達也。それから茶菓子も口にし、優しい目で深雪を見てから、感想を述べる。

 

 

 「うん…、美味い……。」

 

 

 「…ありがとうございます。」

 

 

 再びコーヒーを口に入れ、堪能しながら、満面の笑顔を達也に向ける深雪と一時の会話を楽しむ達也。

 

 温かい差し入れで心も癒された達也は、深雪にもう就寝するように告げて、見送ってから研究に力を入れていく…。

 

 

 

 

 




疲れた後にコーヒーで一服すると和むよね~。


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