新しく発売されるシャンプー『プリンセス』のCM撮影が行われ、SUNとMOONに分かれて制作されていく。翔琉と美晴が出演するSUNver.が順調に撮影を進める一方、MOONver.も撮影に乗り出していた。…鈴蘭一人だけで撮れるシーンを。
「もう撮影開始してから、一週間は経っているけど、一向に現れないわね~。RYUさまは。」
「私、早く生で御姿を拝見してみたいわ~! そしてお着替えをする時、お手伝いするの~。」
「……仕事に専念しなさいよね。じゃないと…」
「ちょっと、目が怖いんだけど…。」
「でもその気持ちは分かるわ~。私も間近で御姿拝見したいし、あわよくば隙を付いて触れてみたりしたい!!」
「そうよね~、あのRYUさまに逢えるんだもの!! 」
…こんな会話がスタイリストやメイクさん、音響スタッフ等などの女性スタッフが黄色い声を上げながら、RYUの出番を今かと待ちわびている。それをBGMとして聞き流しながら撮影は続けられていく。本来は、仕事中なのだから集中しろと注意を受けるはずなのだが、誰も咎めたりはせず、気にもしていない。
なぜなら既に何度も注意はしているのだ。
しかし、軽く流して同じように話し続ける彼女達の変化のなさに呆れ、彼女達に時間を潰されるよりは先に撮影を進めておく方が合理的だとなり、現在に至る。立ち入り禁止にしてもよかったのだが、彼女達は以外にも腕が立ち、仕事には全力で取り組み、抜け目はない。技術もある彼女達を排除すれば、撮影が遅れる結果にしかならないからだ。
そう弁えた他のスタッフは、今、ドレスアップした鈴蘭がパーティー会場へ入場するシーンを撮影していた。
足首まで伸びた赤いドレスは、裾にふんだんに使われたフリルと薔薇のモチーフをした飾りがラメが散りばめられて鮮やかさを演出していた。少しふんわりとした感じの下半身に対して、上半身は身体のラインを強調するように、密着しており、ふくよかな胸の形が出ている。黒髪を軽くカールし、横に一纏めして髪飾りとして赤い薔薇を使っている。
思わず目を追ってしまうほど大人な雰囲気で、存在感が目立つ鈴蘭。
その鈴蘭がパーティー会場に入るだけで、エキストラとして参加している一般人も息を呑む。その中をオーディションでも見せた優雅で可憐な歩き方で会場の中央まで進んでいく。そして到着するとスタッフの合図が入り、撮影が一旦終わる。
「お疲れ様、天童君。相変わらず良い動き方をしている。すっかりお嬢様感が出ていたな。」
「大澤監督、お嬢様感…なのですか?」
「う、鋭いね、天童君は。」
「御姫様ではないのですね、私の演技はまだ…」
「いや今はこれで良いんだ。彼が来てからの撮影からやってくれたらいい。」
「彼って…、もしかして…!」
「ああ…、そろそろ来ると思うんだがな…。」
大澤監督と鈴蘭が談笑し、監督が時計と出入り口を交互に確認する。すると…
「お待たせしました…、大澤監督。よろしくお願いします。」
遂に待ちわびていたもう一人の主役、RYUがパーティースーツを着て、現れた。
その姿を見て、先程黄色い声を上げていた女性スタッフたちが更に絶叫し、少なくとも一人は悶えて鼻血を出すくらい、RYUに惚れ込んだ。
そして、あまりにも似合いすぎるRYUの衣装に胸の鼓動が高鳴る鈴蘭もまた、心の中で彼女達のテンションとリンクしていた。
達也…、一言だけの登場で終わった~~!!