オーディションから数日後の日が真上に登り始めた頃。
緑が広がる草原にて大澤監督によるCM撮影が行われていた。
「二人ともいいかい? ではカメラまわします! よ~い…バチン!!」
ADの合図でカメラが回り出す。そしてそれと同時にカメラのレンズを通して映像が撮られていく。
今、撮られているのは日が差し込む草原で元気に踊ったり、水鉄砲で互いに撃ちあったりと和気あいあいな様子だ。笑いが飛び交い、楽しそうに駆け回っているのは見ている方も微笑ましく思うほど。撮られている方ももう演技とかは忘れて完全に遊びまくっている。それを大澤監督は止めることなく、微笑みながらも目は真剣に映像にくぎ付けになって、逐一確認している。
「…………カァァ~~~~ト!! 二人ともお疲れ様です!」
「「お疲れ様です!!」」
「はい、チェックしますので、しばらく待っていてください。あ…、これで拭いてくださいね。」
大澤監督の視線の合図を受けて、一旦撮影を止める。それを合図に遊んでいた二人も自分たちの世界から帰ってきて、スタッフからタオルをもらって、濡れた体を拭いていく。それから飲み物ももらって、全力で遊んだ疲労をのどを潤して癒していく。
「…う~~~!! 生き返ったぜ~~!! こんなに遊んだのはかなり久しぶりだな。」
「私もです! でもすっごく楽しかった~~!! 」
息が上がった呼吸を戻し、復活した二人は互いに笑顔を見せ、語らう。
「案外俺たちって、息が合うのかもしれないな。」
「はい、私もこっちの方が自分らしくふるまえて嬉しいです!」
「ああ、そうかもな~! でも、それだけで満足していたらいけないぜ? 全く自分と異なったキャラを演技なくっちゃいけないこともあるからよ? いろんなことをこれから経験していく事になっていくと思うぜ?」
「そっか~! うん! 私もこれで満足しないようにもっとた~くさん頑張る!」
「おう! その意気だぜ! 」
強く頷きあって信頼関係を築く二人。一応芸能界入りしたという意味で、先輩である彼は、アドバイスも添えておく。素直に聞いてくれる彼女にさらに好感を抱く。
しかしその一方で、残念な気持ちが膨らむのは否めない自分がいた。
(ああ~~~…。
素直で頑張り屋さんなのはいいし、寧ろ一緒にいても気を許せる仲間みたいに居心地がいいけどさ~。
俺はやっぱりあの子と一緒に撮影したかった~!)
…という心の声を誰にも言えずに呑み込んでいる彼は、そう思っていることを目の前で純粋な笑顔を見せる彼女に見せないように更に笑顔に力を入れる。その彼……、翔琉は、美晴とハイタッチしながら思うのだった。
「二人とも~! OKで~~す!!」
再程撮影した映像が問題なかったようで、再び次の撮影の準備に入る。
メイクを直したり、濡れた髪を少し梳かしたり、程よい濡れたままの雰囲気を残して撮影を始める。しかし、まだ春になったとはいえ、肌寒さがまだ残っているため、シャツ一枚では寒い。はしゃいでいたとはいえ、休憩中に体温も冷えていき、ぶるっとする二人は、早く撮影が始まることを心の中で祈る。
「それでは、シーン2、よ~~い…バチン!!」
合図が出て、すぐに遊びまくる二人は先ほどよりもはしゃぎ、互いに水鉄砲を撃ちあう。そしてヒートアップしてなぜか西部劇風に緊迫した雰囲気で勝負を始め、CMで求めるものとは完全に逸脱してしまい、監督からやんわりと注意を受ける翔琉と美晴だった。
配役は翔琉と美晴、RYUと鈴蘭になりました!
これがどんな展開を生むのか~~!! お楽しみあれ!