この関係だけでカメラを回せるんじゃないか?
離脱失敗したRYUが振り向かないまま、背中で憤りを乗せた視線を受ける一方、鈴蘭には好意的な視線を向けられていた。その二つの視線は同じ人物から向けられたものだ。それを向けている人物…、翔琉はさっきまでの荒い言動とは違い、正反対の落ち着いた足運びで近づいてきた。その足音を振り向かずに聞いていたRYUはやけに意識した足取りだと、態度を一変させた翔琉に対してそう思うと、もう興味は尽きたと時刻を確認する。
「突然ごめんな、天童。 話し中に割りこんじまって。」
「いえ……、ある程度は話し終わっていましたから問題ないです。」
そう言いつつも、翔琉を見る視線には憤怒が少し垣間見える。その視線を翔琉は逆に喜んでいて、テンションが上がっていく。
それとは対照的にたまに見るRYUには、嫉妬を向けている翔琉だが。
そして鈴蘭と翔琉が話し始めたのを見て、抜け出すチャンスだと思ったRYUは、何も言わぬままこの場を去ろうとする。
しかし、翔琉がそれを止める。
「おい、待てよ!RYU!」
「……なんだ? 俺は急いでいる。 待ってやっている時間はお前に与えたつもりだが?」
「そんな時間いつくれたんだよ!?」
「今。 お前が『待て』と言うから、止まってやったんだ。それなのに天童鈴蘭に夢中になっていただろ?」
「くっ…! あれは、同じ共演者に挨拶する感じだろ? 大体俺は夢中になってなんか……」
「そうか、なら話はそれだけだな。俺は失礼する。」
「ちょ、だから待てって!」
「………言っとくが挨拶ならもうしたぞ? 」
言外に早く用件を言え。と告げられた翔琉は、苛立ちを感じつつも、用件を話す。
「いっとくけどな! 俺との勝負から逃げんなよ? 俺は本気で行かせてもらうからな!」
「………はぁ~。 なんだ、それだけか?」
「なっ!」
RYUは呆れている事を隠そうともせず、翔琉に気怠そうに話した。何か伝言でも頼まれてしまい、仕方なく言いに来たとかなら、まだよかったが、宣戦布告を言うためだけに後を追ってきたと知り、肩の力が抜けていく。
先ほどより少し前、審査も終わり、CMの説明を改めて確認がてら聞いてから、監督やスタッフたちに挨拶してから去ったRYU。その際に翔琉から挑戦状を投げ渡された。その行為を自慢たっぷりに語り始めるものだから、熱中して気付かない翔琉を残し、去ろうとしたが、後を追う翔琉の気配を感じ取り、逃げていたのだ。これが翔琉を避けていた理由である。その翔琉から逃げている時、鈴蘭と鉢合わせして転びそうになった鈴蘭を助けたという訳だったのだ。
いつもなら人が近づくまで気づかない…なんてことは無いのだが、直前まで翔琉を煙に巻く方法やCMでの立ち回りのイメトレ、次の予定であるFLT訪問の事を深く考えてしまっていたためだ。
話が逸れてしまったが、それで自分を追ってきた翔琉の言い分があまりにも気落ちするので、これ以上関わり合いになりたくないと今度は話しかけられても無視する方向で行くと決めたRYUは、再び歩き出した。
「ぜって~お前には負けないからな!」
後ろで翔琉が大声で負けない宣言をするのを聞き、ため息を吐くRYU。
あのCMは翔琉を納得させるために敢えて勝負しやすいように二つのCMを作るという提案を出しただけで、あまり深い意味はない。そもそもCMの本来の目的を忘れてしまっている翔琉に相手する気も起きず、刻一刻と迫るFLTでの開発実施予定時刻に間に合うかと腕時計を確認しながら、若干速めで歩き出す。
そんなRYUの目の前にまた人が飛び出してきた。
「あ…! はぁ~…、み、見つけました~! RYU……さん!」
息を切らしている美晴がRYUの顔を見て、笑顔を浮かべた状態で探していた本人を見つけられて安堵するのであった。
翔琉には冷たい態度のRYUです。
急いでいるって言ってるのに…。次々人が集まってきますな~。