魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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モテる人はいいですな~。


離脱失敗

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 (まずいな…。)

 

 

 

 心の中でこの後の予測される結果を考え、頭痛がしそうになる。最悪の事態になるのが見えているからだ。しかし、たった一つの事をするかしないかでは結果が違ってくる。ただし、良い結果になる…と言えるほどの事ではない。せいぜい最悪の事態から面倒な方向というあまり関わりたくないと思うくらいの悪い結果(彼自身の主観でみるとだが)になるというだけだ。「五十歩百歩」という慣用句があるが、まさにそれだ。あまり大差はないかもしれないが、避けて通るにはもはや手遅れ。なら、解放される時間がまだ早い方に賭けるしかない。

 

 

 ……以上の事を瞬時に頭で試行錯誤しているのは、今後の打ち合わせを軽く済ませ、大澤監督達と挨拶して別れたRYUだ。

 そしてそのRYUの目の前では、今回のCMでかなりの支持を得てオーディションに合格した天童鈴蘭だった。その天童鈴蘭は、曲がり角から出てこようとしたRYUとぶつかりそうになり、その拍子で前に転ぶまさにその瞬間だ。

 

 もうすでにお分かりだと思うが、つまりRYUは倒れていく彼女を助けるか、助けないかという瞬時の決断を行っていた。普通は咄嗟に手を差し伸べたりするが、RYUは冷静に鈴蘭が倒れていく様子を優れた動体視力で、まるでスローモーションで見ているように感じながら、今の状況と今後の展開を考慮した結果、手を貸すという結論に達した。

 

 

 

 (なんだかやけに俺を凝視してくるな…。)

 

 

 転びそうになっているというのに、まるで固まったように自分を見続ける鈴蘭を訝しく思いつつも、手を差し伸ばす。

 ここで腰を持ったり、アクシデントで胸に触れたりしないのはさすがのRYU。倒れ行く鈴蘭の手首を握り(痛くない程度の力で)、腕を引っ張る。腕に釣られるように上半身の姿勢が元通りになり、RYUのリードで身体を回転させて床に転びそうになった反動を逃がす。それは傍から見れば、ダンスしているようだ。

 そのお蔭で、鈴蘭は無事に転んで怪我をする事はなかった。

 

 

 「……大丈夫か?」

 

 

 念のため、怪我はないかと尋ねてみるRYU。難なく身体を起こしたし、セクハラだと訴えられるような事もしていないはずだ。確認のために言った言葉だったが、徐々に不安に思えてくる。なぜなら、鈴蘭がずっとRYUを見たまま、見つめてくるからだ。口はパクパクと何かを言おうとしているが、言葉がのどに詰まって出てこない。この状況に再度問題はなかったはずだと先程の出来事を思い返す。

 

 

 (やはり問題はない…な。 …本当はもう一度声を掛けてみるべきなんだろうが、そろそろここを出発しないと間に合わなくなる。)

 

 

 RYUは、ちらっと自分の手首に付けている腕時計を分かりやすく視線を移す。

 

 この行為には鈴蘭も自分の意識を回復させるほど、RYUが急いでいると理解したようで、慌ててお礼を言う。

 

 

 「あ、有難うございます。…RYUさんでしたよね?」

 

 

 「ああ…、RYUでいい。 では、俺はこれで。」

 

 

 あっさりとした会話で、この場を去っていくRYUの背中を目で追う鈴蘭。その視線には気付いているRYUだが、無視して先を進む。

 早くここから離脱しないと、せっかく抜けてきた意味がなくなってしまう。既にこっちに来ている気配がある。

 しかし、そうさせてくれないのはなぜなのか?

 

 

 「あ、待ってください! 」

 

 

 なんと鈴蘭が早歩きで後を追ってくる。

 

 

 「…なんだ?」

 

 

 RYUは不愉快には思えない程度で、それでいて焦りを見せない声と表情で聞き返す。

 

 

 「はい、私はこの度のCMでご一緒に出演させていただく事になりました、天童鈴蘭です。 芸能歴は置いておくとして、きちんと挨拶はすべきだと思ったので。

  急いでいる時にごめんなさい。でもこれだけは言っておかなきゃって思ったんです。」

 

 

 微笑を浮かべて礼儀正しく挨拶する鈴蘭に、律儀な性格なんだなと思いつつ、それは今度CM撮影に入った時にでもしてくれなかったのか?と、ため息を吐き出したい気分になる。

 

 

 

 そこへタイミングよく現れたのは、RYUが避けていた人物であり、急いでここから去りたかった理由の一つだった。

 

 

 「おい! 待て…! RYU~~!! 何俺から逃げようと………

 

  あ!! て、て、て、て、天童鈴蘭…!、………さん。」

 

 

 猛ダッシュで駆けてきた翔琉を見て、RYUは完全に脱力した。

 

 

 (どうやら今日は厄日なのかもしれない…。)

 

 

 悉くと本人の意思とは反する展開に落胆が止まらないのであった。

 

 

 

 

 




不幸を呼んでいるんじゃないとは思うんだよ?
もしかしたらこれが芸能界でやっていくための良い兆しになるかも?……慰めになっているのかな?


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