美晴の演技が終わり、審査員はそれぞれの情報端末に評価をつけていく。あくまで個人の意見を書いているが、この二次オーディションが終わり全員で合格者を決める際の資料にもなる。
RYUも審査員の一人として、電子ペーパーに評価をつける。客観的に見てのものだ。美晴とは同じ事務所だが、そんな理由で肩を持つつもりもないし、そこまで美晴を高く評価するほど知っている訳でもない。まぁ、ダンスレッスンを短いが教えたので多少は私情というものが入る余地があるとは思うが、それでも冷静に指摘する所はするだろう。
(もし私情を挟んで、結果を捻じ曲げる真似をするなら、それは深雪が関係する時ぐらいだな…。)
評価をつけながら、深雪がこの場にいたらという想像をして苦笑しそうになるのを堪えながら採点するRYUは、達也としての自分が出てきた。
まだRYUとして確固たるキャラ設定ができていない達也は苦戦しているものの、なんとかコツは掴んできた。しかし、先程の美晴のように演技できるかと言われれば、答えは「できない」だった。美晴のように表情や雰囲気だけで演じる人物の心情を語るなんて真似は不可能ではないかと思うくらいRYUには難しいものだった。
感情を表現するというのは、その感情を自分も理解してするものだ。
しかし、RYUは…、達也は、幼い頃に実母によって受けた人体実験によって感情をたった一つの感情を除いて消されてしまった。だから、美晴の演技を見ていたRYUは、どうしてそんな風に表現するのか理解できなかった。
(俺は、やはりこういった芸術なんてものには縁もない。寧ろ嫌われているな…)
と、消極的な考えが頭に浮かぶのであった。
しかし、今まさにRYUとして演技している達也。これをきっかけに何かをつかめればと思うのもまた事実。いつまでも人との接し方や態度を決めておかないとボロが出てくる。それは、真夜から受けた任務に差し支えるという意味が生まれる。
(覚悟が足りなかったという訳か。 …苦手だが、やるしかないな。美晴も頑張っている訳だしな。)
自分のこれからの方針に一応の対応を決めた達也は、大澤監督が次の参加者を呼んだことで、自分の事は横に置き、審査の方に目を向ける。
そして、絶句して身体が固まった感じを受けた。
目の前に、深雪がいる………。
凛々しく自分に向かって歩み寄る姿が視界に入り、その顔には誰もが目を話す事が出来ないのではないかと思うぐらいの繊細で美しい笑みが浮かんでいた。
その笑みを見て、会場中がざわつく一方、RYUは…いや、達也は背中に嫌な汗を掻いて、額にも汗を掻き始める。
(これは…! まずい事になった…! )
そう心の中で、動揺をする達也は、表面上はお手並み拝見といった期待する態度を取りつつ、この事態をどうやって乗り切るか、必死に頭を回転するのであった。
深雪がここで~!!?どういう事なの!?
…達也! どうするんだ~!!
…ん?待てよ?