魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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乙女は皆プリンセス願望を持っていたりする…。小さくもあれば大きくも。


プリンセスの心

 

 

 

 

 

 

 「プリンセス……ですか?」

 

 

 挙手して自分の聞き間違いではないのかと疑った参加者の一人が問い返す。もっと具体的に説明してほしいと。他の参加者たちもそれを望んで神経を研ぎ澄ます。

 そんな必死な彼女らを横目で見た鈴蘭はつまらなさを感じるため息を心の中でする。

 

 鈴蘭は大澤監督の一言で二次審査の内容を検討付けていたのだから。「少し考えれば分かるというのに…、本気で役を獲る気で来たのかしら?」と思うほど。

 

 その一方で美晴は「プリンセスってキラキラしていてずっと憧れているんですよね~。」と天然に捉えていた。

 

 参加者たちの反応を見て、ほくほくと笑顔を浮かべる大澤監督。

 

 

 その笑顔を横からこっそりと見て、RYUはそれが何を考えているのか、この説明の狙いを悟られないために作りだした仮面だと見抜いていた。自然にできてはいるが、RYUは大澤監督以外にも自分を偽る事が出来る人物を数多く知っているし、傍からも見てきたため、すぐに見破る事は出来る。…唯一見抜けない時があるのは、最愛の妹のみだ。

 

 

 そんな事情から大澤監督が何を見ているのかを見抜いたRYUは、もう一度参加者たちを見て、これで大半は絞り込みができ、後は演技次第だな…、ともう既に結果が見えた気分になりながらも最後まで見届けるつもりで黙って進行を見守る。

 もしかしたら最後の最後で、予想外な事があるかもしれないからだ。

 

 

 「ええ、プリンセスです。

 

  皆さんには後ろに用意している小道具や衣装を含め、この会場にあるものを使って、貴方なりのプリンセスを見せていただきます。制限時間は1分で。では準備に選んでください。」

 

 

 大澤監督がアイコンタクトでスタッフに合図すると、頷いて返答したスタッフが首から下げていた笛を口につけ、息を吸い込む。

 

 

 

 ピィィィ―――――――!!

 

 

 

 

 甲高い笛の音が会場に響き渡る。

 

 

 その合図を受け、真っ先に動いたのは鈴蘭だった。しかも走って道具を鳥に行く事もせず、背筋を伸ばしたまま綺麗に歩く。

 

 まるで、必要な者は全て決まっているという圧倒的自信を持っているような…。

 

 それに疎れていたという訳ではないが、もう審査が始まっている事に気づき、慌てて道具や衣装に向かって競うように奪い合う参加者たち。傍から見れば、そこはバーゲンセールに集う者達…に見える。

 

 

 「あ~~あ…。 すっかり大澤さんのペースに嵌ってしまっているな~。これならかなり振るい落としもできたんじゃないすか~?

  可哀想だけど、ここまで進めただけでも立派だぜ。」

 

 

 参加者たちの光景を見ながら、言葉にした通りの憐れみを向ける表情をする翔琉は、隣の大澤監督に思いきり満面の笑みを向けられ、顔を引き攣る。そして口笛を吹いて横に視線を逸らす。

 前から大澤監督の作品に何度か出演している翔琉は大澤監督の意図を知っていた。それ故に先程よりは冷静になったのか、いざこざはなくなったが、相手を出し抜こうというブラックな一面が出しながら品定めしていく彼女らの行動が意図にまったく気づくどころか不利になっている事にも分かっていないと、少々呆れてきたのであった。

 

 

 そして数分経ち、全員準備が終わったようなので、それぞれの自分なりのプリンセスとは何か、を演技で見せてもらおう。

 

 

 「ではまずはじめに…、日暮美晴さん。お願いします。」

 

 

 「は、はい! よろしくお願いします。」

 

 

 一番バッターとして呼ばれたのは、美晴だった。

 

 

 本当は鈴蘭からやろうと思ったが、美晴を見てから考えを変え、一番に美晴の演技を見たくなったのだ。

 

 ……………だって美晴が用意したものは、なかったのだから。

 

 

 その意味は、道具は使わないで自分の演技に…、表現力で勝負するという意思表現だ。

 

 それは大澤監督に興味を引かせるのは十分だった。己の力だけでどこまでやれるのか見てみたくなった。

 

 

 「それでは……用意…、始めっ!」

 

 

 時計を確認しながらタイマーがスタートする。制限時間は一分。この一分で、美晴はどんなプリンセスの心を表現するのだろうか。

 

 

 




さて…、美晴の演技…、どうなることやら。

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