プレッシャー半端なくない!?
鈴蘭のダンスが終わり、審査員たちはお互いの顔を見ながら、小さな声で議論する。鈴蘭は全く異なったダンスでそれぞれの表現力を魅せただけでなく、しっかりと独自性を出していた。技術力も申し分ない。早くも合格者の候補に挙がってしまった。
…と言っても、そう考えているのはスタッフであり、大澤監督は気に入ったという表情はしているものの、そこにはまだ決定を下すには尚早だという真剣な眼差しを持っていた。その眼差しはこれから最後の締めくくりとしてダンスを披露する美晴へと向けられていた。
そんな審査員側の様子を客観的に観察する者が一人いた。
もちろん、RYUだ。
RYUは、審査員としての責務をきちんと行っていた。動画や雑誌、書籍等を見て研究していたダンスの技を頭の中で思い起こしながら、参加者たちのダンスの精度や難易度を観察していた。鈴蘭の時も同じだ。だからなぜか鈴蘭が踊り始めてから上の空になった翔琉を横目で確認して呆れた。「何をしてるんだ?」と。
RYUには分からない感情が彼らの心を支配しているという事に気づかないRYUは、声を掛ける事もせず、ただ評価を電子ペーパーに書いていく。
あくまで、ダンスの評価だけだが。
表現力とかの評価はしていない。
いや、できないんだ。
表現ともなると、感情が反映されてくるが、それを理解できないため、何を表現しているとかは全く分からない。そのためにダンスの面での評価を事細かくすることぐらいしかRYUにはできないのだった。
しかし、これは悪い事ではない。
RYUは鈴蘭の審査中、鈴蘭のバランスがとれ、経験者らしいダンスを見る事が出来て、感謝したのだ。事細かくダンスを見る事が出来たため、自分のダンスの精度もまた上がるいい見本になった事が嬉しいからだ。
そういう事で、RYUは鈴蘭のダンスから多くを学び、良い参考になったと少しだけ唇を吊り上げる。
すると、美晴がついに呼ばれ、目の前に来て、ダンスを披露し始めた。
そしてRYUは、ほくそ笑む。
なぜなら、美晴のダンスを見て、和みを感じたからだ。
美晴は鈴蘭とは正反対の表現で魅入らせていた。鈴蘭が大人な雰囲気を持ち出したのとは裏腹に、美晴のはポップで、元気で明るさが感じられるものだった。年の割には小柄な体型と満面の笑顔を浮かべると、可愛さもあるが、みんなを包み込む太陽にも思う。
もっと言うならば、”踊る妖精”のようだ。
その妖精を思わせる美晴のダンスはRYUとレッスンしていた技も使っていて、この日のために努力してきた事が分かるし、楽しそうに笑って踊る美晴の魅力は、RYU以外の審査員にも届いていた。
可愛らしい妖精だね、美晴。
RYUは…、達也っぽいね。いやいや達也が変装しているから!