魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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モブを色々と出してみたけど、二人の御膳立で終わりそう?


二人の踊り子

 

 

 

 

 

 鈴蘭の踊りが始まった。

 

 

 そしてそれと同時に会場にどよめきが起きる。

 

 詳しく言うなら、同じオーディション参加者は驚愕と恐れ、嫉妬を滲ませる。美晴はただ尊敬するように目を輝かせて、感動している。その一方、審査員の大澤監督は何度も頷きながら電子ペーパーに何かを書き込んでいく。他のスタッフも若干頬を赤く染め、魅入っている。特に、翔琉は口を大きく開けて、全身に力が入っていないのではと思わせるほど脱力した状態で鈴蘭を凝視していた。その顔には引き締まりがなく、先程までの審査の時での真剣にダンスを評価していた面影はもはやなかった。

 

 会場にいるすべての人間を魅了しているのは、もちろん鈴蘭だった。

 

 

 曲もなしで自分のダンスを披露するのだが、鈴蘭に至っては、踊り始めてすぐに曲が流れているような錯覚を感じさせるほど可憐で、繊細で、美しく、思わず見入ってしまうのだ。

 

 鈴蘭はバレエを踊っていた。

 

 足の爪先で綺麗にバランスを取って立ち上がったり、空中で綺麗な開脚をして、軽やかでありながら優美さを感じさせる。そして指の先やまつ毛の先までバレエによる圧倒的な表現をやり遂げる。そのお蔭で彼女と不意に目が合ったスタッフは激しい動悸に見舞われ、他のスタッフの肩を借りなければ立っていられない状況に陥るのであった。

 

 そして踊り始めてから数分経ち、そろそろ終わりかと思ったその時、鈴蘭が自分のスカートのボタンを外した。違った意味でのどよめきが審査員席やその傍らにいる者達から沸き起こる。それを呆れた視線で見つめるのは、参加者たちだ。

 

 残念ながら、彼らが期待した展開にはならなかったが、その分より鈴蘭の演技や表現の奥深さを知る事になる。

 腰あたりに止めていたボタンを外されたスカートは一気に下へと下がり、足首までのロングスカートへと変わる。裾にはレースがあり、鈴蘭が動くたびに緩やかに靡く事で、色気が増す。

 たった一つの変化で鈴蘭にまた違った風貌を見せられた審査員は圧巻に陥る。

 

 その反応を見て、ふと微笑んだ鈴蘭は何処から持ち出したのか、扇子を持つと、それを広げ、今度は舞を披露し出した。

 

 

 異なる二つの踊り。洋と和の両方の世界観を見せられた一同。

 

 

 舞を踊る鈴蘭は、前の踊りの際の華麗さや優美さを兼ね備えていたが更に色気や妖艶さが入り混じり、回ると髪が浮き上がり、美しい曲線のうなじを見て、惚れ惚れとさせる。

 

 この状況を例えるなら、そう…、お茶屋で舞妓の踊りを鑑賞して盛り上がる男性客のようだ。

 

 

 

 

 そんな状況が続き、鈴蘭の踊りが終わると、会場全体で拍手が鳴り響く。

 

 

 特に審査員の方が感情を吐露している。翔琉が一番大きく拍手して、完全に夢見心地で見惚れている。

 

 その拍手にこたえるように綺麗に腰を折ってお辞儀する鈴蘭は、最後にちらりとRYUを見てから、参加者たちの列に戻っていった。

 

 

 

 鈴蘭のダンスは、まるで二人の踊り子を見ているようで、これまでの参加者たちとの圧倒的な実力の差を知らしめる。

 

 

 

 

 

 参加者たちの列に戻った鈴蘭はふと自分をキラキラとした目で感動しましたと言わんばかりの強烈な尊敬のまなざしを向けてくる美晴を視界にとらえると、ふっと笑い掛ける。

 その笑みは、友好関係を築こうとか、嬉しくて美晴の眼差しに応えたというわけではない。

 

 

 

 …これでこのオーディションで選ばれるのは私だと、上から目線で一瞥した笑いを送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーディションでは印象が大事だったりするからね。
サプライズで印象を植え付けたりって、鈴蘭は慣れているのかもしれない。

そして、翔琉…。もしかして…!!

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