RYUはどうやって対処するのかな?
「まぁ、まぁ、翔琉君。これにも事情があるんだ。榊社長がぜひ彼にCM出演してもらいたいと直にオファーしたんだ。キャストの決定権は私に一任されているが、メインのイメージを決めるのは、依頼主の榊社長の方針に重視するしかないんだ。分かってくれ。」
RYUに睨みを効かせる翔琉に大澤監督が他のスタッフの救援を一身に受けて、仲裁に入る。
「ああ、大澤さんの言っている事は本当だろうぜ。あんたはくだらない事で嘘はつかない人だからな。でも俺にとって、納得できるものと納得できないものってやつがあるんだよ…!」
「翔琉君…。」
「突然オファーが変更になって、降ろされることだってあるのは知っているし、この業界ではそんな事は多々あるさ!
でも、俺の代わりに出る奴がつい最近になって注目浴びただけのひよっこ風情にぶん取られた事が腹が立つ!! 納得できるわけねぇ~だろ!!」
翔琉は目をしっかりとRYUに向ける。見上げる視線の先に挑戦的な視線をぶつけられているRYUはただ翔琉を見下ろす。そして無言のまま。
何も言ってこないRYUに馬鹿にしているのかと更に憤りを感じる翔琉。
翔琉は、今回のような事も何度か受けてきている。芸能業界ではスポンサーの求めるCM作りも考慮していくため、キャストの変更もよくあることだ。この業界で生きていくには、上手く乗っていかないといけないのは分かっている。しかし、仕事には真面目に取り組む翔琉は、これまで自分の後釜となって入るキャストが自分より優れていたり、違う才能を持っていない限り、認めなかったし、役を譲ったりもしなかった。
つまり、翔琉は新人過ぎるRYUが注目度だけで採用された事がどうしても許せなかったのだ。
「翔琉君…。気持ちが分かるが、今回は…」
大澤監督が気の毒だが…と申し訳なさそうな顔で翔琉を宥めようとした時、RYUがついに口を開いた。
「要するに、俺がこのCMに起用されるにふさわしいか、納得させてほしいと言う事で間違いないか?」
「…ああ。その通りだ。」
「そうか…、あの、このCMは何を紹介するんですか?」
「え、あ、”プリンセス”というシャンプーという新商品のCMです。”サン&ムーン”の二つの種類があり、それぞれ効力が違うんです。」
「なるほど…、分かりました。ありがとうございます。」
CMで売り出す商品についてスタッフの方に聞いたRYUはほんの少しの間考える。翔琉はというと、CMに起用されたというのにまだCMの企画を知らなかったRYUに対してますます腑抜けた奴だと思い込んでいた。
…そもそも決まってものの一時間も経っていないのだから当たり前だ。寧ろついさっき決まったばかりの事なのに翔琉が知って駆け付けてくる方が不自然である。まぁ、元々オーディションの審査をするために、ここに向かっていた所で、連絡を受けたので問題はない。
そんな考えをそれぞれがしていた中、RYUが提案を出す。
「なら、今回のCMは二つのパターンで作ってみてはいがかでしょうか?」
「何? 二つのCMを作れっていう事か?RYU君。」
「はい、二種類の新商品があるのでしたら、それぞれにCMを作って、それに彼と俺とで分かれて撮影するんです。そして、CM公開され、商品がより多く売れた方が優れていると決定する…というのはどうでしょう。」
「……悪くはないな。そちらさんは彼の提案をどう思いますかな?」
「はい…、こちらとしては売り上げに貢献してもらえれば嬉しい限りです。構わないですよ。」
「ふむ。」
スポンサーの会社員たちから了承受け、大澤監督は翔琉に顔を向ける。そして視線だけで「お前はどうするんだ?」と問いかける。
翔琉は、嬉しいのと挑戦的な表情で頷く。
「俺もそれで良いぜ! これほど明白で、勝負し甲斐のオファーは初めてだぜ!」
乗り気になっている翔琉にほっと安堵するスタッフ一同。
翔琉はRYUに指を向けて宣言した。
「その勝負、乗ってやる…! 」
「ああ…、よろしく。」
RYUも微笑を浮かべて翔琉の宣戦布告に応えるのであった。
CMを使っての勝負か…。さすが達也様だね。ただ勝負するだけでなく、依頼主の利益も考えた策。