再び美晴を送り届けたオーディション会場があるビルに到着した達也は、向かいの複合施設の駐車場に愛車を止める。一度、美晴が出迎えに出ているかと確認したが、美晴はいなかった。それよりも到着した自分を身を潜めて見つめてきた視線がいくつも感じ取った。そこで、念のためにビルの中の地下駐車場には入らず、発進させ、回り道した後、死角になる別の入り口から向かいの駐車場に潜り込んだのだ。
ここなら、多くのバイクも止めてあり、複合施設であるだけに多くの人が訪れている。人の眼が常にある上、監視カメラも装備されている。最も達也が愛車を止めた場所は監視カメラの死角で、非常階段に一番近いという計算されたスポットであるが。
もし、ここではなく、オーディション会場のあるビルの地下駐車場に止めていたら、自分を見ていた人物たちが愛車から離れた隙に何かを仕掛けるかもしれない。RYUが実は魔法科高校生の司波達也だと知られる要素は排除しておくに越したことは無いという達也の判断だ。
そんな訳で、愛車を駐車した達也は、ヘルメットを脱ぎ、代わりにサングラスをかけ、RYUへと意識を変える。まだ模索中ではあるが、徐々に役どころを掴んできたからか、大分それっぽく振る舞うのに慣れてきてはいた。しかし、基本は達也とかわらないため、ふとした時に素が出てしまうのがまだまだだと自分に厳しい評価をその度につける達也である。
★★★
「あ、RYUさ………さん!! ごめんなさい! 来てくれたんですね!」
美晴と合流するために、ビルの中に入り、会場がある階へと着いたRYUを見つけた途端、美晴が勢いよく早歩きして、謝りながらも安堵と喜びに満ちた表情で話してきた。
「ああ…、まだ時間もあるしな。それよりも何があったんだ? 電話ではよく理解できなかったんだが?」
「そ、それが……」
あんな電話をしたら、こう聞かれるとは分かっていたはずの美晴だったが、いざ改めて説明しようとすると、言葉に詰まる。説明に渋っている美晴を見下ろして、待っていると美晴の後ろの方から声が聞こえてきた。
「私が説明しようではないか! これは私に決定で行った事だからな!」
「…あんたは?」
突然話しかけてきた同じくサングラスをかけ、赤いシャツに縦じま模様のスーツで、金のブレスレットやらネックレスやら指にもいくつかの指輪をはめている派手な中年男性が数人の関係者を引き連れて近づいてきた。明らかに偉い人だと否応なく理解できる。しかし、RYUは何者かもわからないし、いきなり呼びつけてきた本人に対し、礼儀を通すつもりもない。相手の方が既に見た目同様に見下した態度をとっているからだ。
「この俺を知らないのか!? お前…、変わった奴だな。」
RYUの返事に心底意外だと大きなリアクションをするその男性。その後ろで慌てているのは、このオーデジションの審査を受け持っているディレクター達が説明する。
「この方は、大手芸能事務所『パーフェクトゴッド』の敏腕社長、榊寛人(さかきひろと)様であり、今回のCMオーデジションの依頼主で在られます!」
「そうですか、それでその凄腕社長さんが俺に一体何の用ですか? 分かっていると思いますけど、俺はこのオーディションにエントリーもしていないので。」
訝しんでいる表情を作りだし、用件を尋ねるRYU。ただし、話しかけているのは後ろにいる監督にだ。
「ああ、実は君がこの子を送っている所を何人ものオーディション参加者が目撃していてね。すっかり君との共演ができると思い込んで張り切っている子達が続出しているんだ。しかし、そんな事実はなかったわけだし、私達も先程知ったばかりでね。「そのような事実はない。」と断っていたんだが、榊社長が……」
「このCMのコンセプトには君がぴったりだと決定し、ぜひ出演してもらおうと私が許可したんだよ! そして君と共に何人かの子達も選んで、一緒に出演してもらいたいんだ! そのために君が送り届けていた彼女に協力してもらって、君を呼んでもらったという訳さ!」
監督の説明を横入りする感じで自慢たっぷりの口調で話す榊社長に、RYUは心の中で悪巧みが分かりやすい…と目の前で盛大な溜息をついてやりたい気分になった。
要は、自分をエサにオーディション参加者のレベルを上げ、選び抜きたいというのと、このCMで利益を独占したいというのが手に取れるように理解できた。RYUがCMに出るのはこれが初だ。今注目されているアイドルがいきなりCMにでれば、誰もが注目するし、そのRYUが出ているCMの商品にも目が行き、売り上げが伸びるから。
RYUは、会った時から親しくなりたいとは思わなかったが、話を聞いただけでこの社長とは関わりたくないと拒絶したい気持ちが強くなった。だからもちろん答えは……
「申し訳ありませんが、俺はこの申し出を辞退させていただきます。」
断固としてはっきりと断る決断をした。
「そもそもこのオーディションに参加している子達はCMに出たくて一生懸命自分を高めてきた子がほとんどです。申し込みさえしていない俺が選ばれたらその子達に申し訳ありません。」
「で、でもね? RYU……」
「それに俺は興味がありませんので。では、失礼します。」
何とか引き留めようとする監督の言葉を遮り、言いたい事を言ったRYUは回れ右をして、元来た廊下を歩き出す。すると、後ろの方で高笑いが響く。
「わ~~~~~はっはっは!! 面白い!この私に反論する奴がいるとは!実に面白い!!その意義…、気に入った!!
しかしな~!!依頼者であるこの私がオーダーしているんだ。私の決定は絶対なのだよ! 君は断ってはいけない…。もし、君が断るというのであれば、君の後輩の参加資格を取り消さねばならんが、それでも構わないかね?」
「……………」
首だけを振り向き、背中を通して見たRYUは、作り笑いをして美晴の方にがっちりとした手を置き、自分を見てくる榊とそれに困惑と恐怖で身体を震わせる美晴の姿を捉えるのであった。
いきなりオリキャラを出してみましたが…、なんだろう、腹立つな。新キャラ。