魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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さて、達也命の深雪がどうなる事やら…。


深雪の不安

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ~……。」

 

 

 これで何度目のため息だろうか。

 

 

 妙に重みのあるため息を吐いているのは、リビングのソファーで背もたれに背中を預けて座っている深雪だった。老若男女が天女のような美貌に惚れない事はないと言える深雪が不安いっぱいの表情で身体の力も抜けた状態でただソファーに座っていた。

 それを何と声を掛ければいいのか、そもそも声を掛けてもいいのかと別の意味で不安がる水波は、後ろで控えながら迷っていた。

 

 どうしてこうなったのかというと、理由は簡単だ。

 

 ………達也がいないからだ。

 

 

 ただ達也がいないだけなら、こんなに落ち込む事もない。達也と深雪の仲を知っている者なら、一緒にいて当たり前だと思うし、いつもくっ付いているイメージが強い。だが、実際はそれほど一緒にいるという訳でもない。学校でも別行動はするし、休日でも達也がFLTや独立魔装大隊の訓練でいない事はよくあることだ。更に水波が来てからは、達也が外出する事も増えた。何もおかしなことはない。……はずなんだが。

 

 

 「……水波ちゃん、お兄様はまだ帰ってきませんね。」

 

 

 「そ、そうですね…。で、ですがもうしばらくでお帰りになるかと思います。」

 

 

 この会話のやり取りも何回目かと思いつつ、深雪が魔法を暴走させ、このリビング一帯が極寒の地へと変貌する事だけは阻止しようと言葉使いや声のトーンまでも気を付けて繰り返す水波の返事は、「達也様…、そろそろ限界です。」と告げていた。

 

 

 そして再びため息を吐く深雪は、夕食の時刻を過ぎても帰ってこない達也を思い浮かべ、不安を抱え込むのだった。

 

 

 「お兄様…、深雪に一体何を隠しているのでしょうか?」

 

 

 「深雪様に達也様が隠し事をするとは思えませんが?達也様は深雪様を第一にお考えですから。」

 

 

 独り言のつもりだったが、どうやら水波に聞かれていたらしく、落ち着いた口調で答える。それを深雪にしては珍しく苦笑して話す。

 

 

 「ええ、お兄様は頼めば答えていただけるとは思うんだけど、今回は…、違うわね。」

 

 

 「今回は、ですか?」

 

 

 「今日は叔母様に会ってくるからと事前には聞いていたけど、お兄様はあまり気乗りではなかったわ。本来ならすぐに用件を終わらせて帰ってきてもおかしくはないのだけど…。お兄様は寄り道をするような方でもありませんし。」

 

 

 「それではまだ用件が終わっていないのかもしれませんね。」

 

 

 「………なんだか胸騒ぎがするわね。」

 

 

 「胸騒ぎ、ですか?」

 

 

 急に表情を曇らせた深雪を見て、水波は訝しく思いながら尋ねる。

 

 

 「お兄様に何やら良からぬ出来事が起きているのかもしれないわ…。例えば…、女性関係で。」

 

 

 「………それはもしや、女性と逢ってデートをしていると仰られているのですか?…達也様が?」

 

 

 まさかと思いながら水波は深雪が言葉を濁らせた意味を正確に読み、問い返す。深雪もそれを考えていたのか、身体が一瞬だけ跳ねる。

 

 

 「……ええ、お兄様、あれでもかなりおモテになりますし、エスコートも上手ですから。…ジゴロですものね。」

 

 

 何やら黒いオーラが深雪から発せられ、水波は思わず無意識に一歩後退する。

 

 

 「達也様に限ってそれはないかと思います!達也様は本当に深雪様の事を第一に思っていられますから!」

 

 

 なんとかこの場を収めようと声を少し張り上げる水波の言葉に深雪がなぜか頬を少し赤らめる。

 

 

 「そ、そう?水波ちゃんから見ても、お兄様は私の事を想ってくださっていると思うかしら?」

 

 

 (あれ………?)

 

 

 妙なニュアンスのずれを感じたが、せっかくノッてきている深雪をまた逆戻りにさせたくない水波は、妙な違和感の事はとりあえず横に置いておくことにして、収拾に繋げていく。

 

 

 「はい、ですからご心配する事はないと思います。達也様がこのような時間まで女性と戯れるほどの器の持ち主ではない事は私も理解してますから。」

 

 

 はっきりと断言した事で、深雪も決心を固める事が出来たのか、先程のようにため息を吐く事も落ち込む事もなくなった。今では達也の帰りを心から待ち続けている。その姿はまるで王子と逢えるのを願っているお姫様と同じだった。

 

 水波も達也が深雪を置いて遊ぶ人ではないと疑っていない。

 

 しかし、二人の女の勘は外れてはいなかった。だって達也はその時、美晴と一緒にダンスレッスンをしていたのだから。二人で。

 デートではないが、これを知れば、深雪の笑っているけど笑っていない微笑みで氷柱の如き視線を受けるのは必須だろう。

 

 …もちろん、深雪に話すわけにはいかないが。

 

 

 まぁそれはともかく…、

 

 

 しばらくしてようやくバイクのエンジン音が聞こえ、深雪は目を輝かせて玄関へと向かう。その後を負けじと水波も追いかける。そして玄関に到着してすぐ、玄関の鍵が開き、待ちわびていた達也が姿を現す。

 

 

 「お帰りなさいませ!お兄様!」

 

 

 「お帰りなさいませ、達也兄さま。」

 

 

 「ただいま、深雪…、水波…」

 

 

 深雪が抱き着かんばかりの飛びつきをしようとする自分をなんとか自制しているのを優しく微笑み、深雪の頭を撫でる達也。その撫でる手の優しさに深雪が嬉しそうにするのをみて、水波はほっとするのと同時に、このピンク色の空気に慣れずにいた。

 

 

 「遅くなってすまない、悪いが先に夕食を頂いてもいいか?」

 

 

 「もちろんです、お兄様!」

 

 

 そう言って、深雪は達也の腕を引っ張ってリビングへと連れて行く。達也は深雪にされるがままに着いていき、その後を若干の披露を魅せつつもメイドとしてのプライドを保ちながら、後をついていくのだった。

 

 

 




やはり女の勘ってすごいな!!達也…、ばれずにアイドル出来るかな…?

そしてこれは明日からの予定ですが、原作の方がもうそろそろ発売されるので、その前にうちが妄想した原作のストーリーをちょっとだけやりたいと思います!ラブ展開が主になると思いますが、よろしくお願いします。
…一旦アイドルは離れますが、短編になるかと思います!

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