…あまりにも余裕がない予定に思わず突っ込んでしまった。
四月二十八日土曜日、午後三時。
十三束と琢磨は服部に先導されて時間通りに第三演習室へ現れた。
審判は服部が務める事になっているが、何の因果か、あるいは当然の成り行きか、達也は立会人として今日も琢磨の試合に関わる事になった。
この場には他にも深雪や沢木、幹比古、桐原がいた。
だから、達也は面倒だという事を表情には出さずに試合の準備をする十三束や琢磨を見ていた。
なぜなら、達也は早く行かなければいけない場所があるからだ。『ゴールデンスター芸能プロダクション』という芸能事務所へ行き、真夜と合流するためだ。既に提携の交渉は始まっている。本来は達也もいなくてはならないのだが、この試合が決まったと同時に真夜からの暗号メールで事務所への入籍交渉の時間が被ったのだ。それを葉山さんに伝えると、「では、なるべく引き伸ばしておきますので、最後に顔を出してやってください。」と言われている。つまり、達也が事務所の人間と顔合わせをするのは最後で良いという訳だ。それまでに変装し、辿りつければいい。
しかし、達也は真夜に借りを作るのは嫌なため、できればこの試合を分解魔法のように霧散させられればな…と、思うのだった。
そうとは知らない深雪達は、いよいよ始まる試合を凝視し、沈黙する。
静まり返った室内は、服部がスウッと息を吸い込む音まで聞こえる。
「始めっ!」
服部の声が、その静寂を破った。
最初に動いたのは、琢磨だった。
琢磨が攻撃を仕掛け、無数の紙の刃が十三束に襲い掛かる。しかし、十三束の全身が爆発的な相子光を迸った。
それは、術式解体だった。これには立ち会っていた幹比古も驚いた。しかし、深雪が接触型の術式解体だと違いを示したため、すぐに疑問や驚きは消え、幹比古は試合に意識を集中させる。
次々とミリオン・エッジが十三束の術式解体でただの紙くずになっていく。そして十三束は決定打となる一撃を琢磨に入れ、試合は十三束の勝利で終了した。
(七宝の負けか…。まぁ、予想通りだな。ミリオン・エッジに固執するあまり、十三束の接触型術式解体で無効化されるのを繰り返していたからな。闘いにおいて、手段扱えないなら、すぐに違う対応を考え、実行しなければ相手の思う壺だ。)
立会人として鑑賞していた達也は心の中で、今回の試合の辛口な感想を述べていた。
(これで、試合も終わった事だし、深雪には悪いが、帰りは水波と一緒に帰ってもらおう。俺は今から叔母上と合流しなければ…。)
試合が終わり、ここにいる理由もなくなった達也は、後片付けを済ませようとした。しかし、達也の望みは後回しになるのだった。
敗北感に打ちのめされている琢磨は、打たれた腹を押さえながらゆっくりと壁際へ歩いていく。壁に背中を預け、そのままズルズルと床にへたり込んだ。
琢磨が自分を見ているのを確認して、十三束が達也の前へ歩み寄る。
「………何だ?」
(何か言いたそうだが、十三束が俺に何の用だ?)
不思議に思い、声を掛けたが、先に水を向けられて、十三束の方が何事か言い辛そうにしていたが、ようやく口を開いた。
「司波君、僕と試合してくれないか!」
真っ直ぐに一点の曇りない視線を達也に向けて、模擬戦の果たし状を渡しにきた十三束の言葉に達也は頭を悩ませるのであった。
(……………は?)
達也急いでるんだよね!そこに自分と戦ってくれなんて言われたら、確かに何故?って思うよ~!!
でも大丈夫だよ、真夜も待ってくれるよ!真夜は達也のアイドル姿を見たいんだし。