真紀との話し合いを終えた達也はマンションの屋上にいた。
本来の予定では、地上に降り立つ予定だったのだが、夜空に不審な影を認めて予定を変更したのだ。
黒い影は小型の飛行船だ。それを見て、考えを張り巡らせた達也だったが、最終的に盗撮用の船体だと考えた。
「少尉、小和村真紀のマンションに接近中の飛行船が分かりますか?」
『ええ、捕捉しているわ。達也君が女優さんの部屋にいる時から。降下してくるとは思わなかったけど。』
「所属は分かりますか。」
『フライトプランによればテレビ局の物ね』
「小和村真紀のスキャンダルを狙っているのでしょうか。」
『その可能性もゼロじゃないと思うわ。』
響子の声には盗撮に対する行為への嫌悪感が滲んでいた。達也もマスコミの不必要な行為には辟易する時はあるが、そこまでスキャンダルが欲しい彼らが滑稽だと嘲笑う気にもならなかった。代わりに達也が考えた事は…
「少尉、この地区の相子レーダーをオフにできますか。五分程度で良いんですが。」
『盗撮を止めるつもり?』
「はい。」
折角真紀を相手にした交渉を終わらせたばかりで、今後のアイドル活動にも働いてもらうつもりでいたのに、彼らの所為で台無しにされるのは不快だからだ。琢磨が部屋にいる姿を撮られたら、肉体関係の最中でなくても十分にスキャンダルになってしまう。
『三分で片付けてくれ。』
真田にそう注文された達也は、時間が足りないと思うより、それでもまだ時間がありすぎるくらいだと思った。しかし、それを口にするつもりは達也にはない。
「了解です。」
愛機の「トライデント」を抜いて見上げると、ちょうどゴンドラの扉が開いて縄梯子が下ろされた。単なる盗撮ではなく不法侵入するつもりか、正気なのか、と最前の自分の行為を棚に上げた呟きを心の中で放った達也は、ゴンドラの入り口へ向けて跳躍の術式を発動した。
達也は、テレビ局のクルーを一瞬で無力化した後、操縦システムにアクセスし、進路を元のテレビ局へと引き返させるつもりだった。
しかし、飛行船の中へ飛び込んだ直後に浴びせられた怒声により、その考えは粉砕した。
語感が日本の物とは違ったからだ。東亜大陸系の言語ではないかと感じはしたが、達也は北京語も広東語も習得していない。習得しようと思えば、達也は一日も掛からずにできるだろう。だがそれをしないのは、必要性を感じないからであり、慣れあう気もないからだ。
大亜連合が沖縄に攻めてきた時、深雪をあと少しで失う所だった。発砲したのは、国防軍の裏切り者だったが、彼らを利用したのは大亜連合だ。もしあの時達也が駆けつけるのにあと数分遅ければ深雪は死んでいたかもしれない。深雪に愛情の全てを注いでいる達也にとっては身を引き裂かれるほどの恐怖であり、絶対に許す事のない逆鱗なのだ。だから、達也は大亜連合の者とも話せるように言語を覚えようとは一切思わないのだ。………個人的には。
自分からは歩み寄ろうともしないが、任務ではまだ許容する部分はある。最もその場合は通訳させるが。今回は任務とは程遠いため、個人的な思考が入り、怒声を浴びせる彼らを覆面の下から冷めた目付きで見返す。
…という訳で、怒声の意味を理解できなかった達也だったが、その達也に拳銃が向けられ、緊張が走るのであった。
(次から次へと厄介だな…。)
心の中でため息を溢す達也は、銃口を向けられながらも冷静だった。
達也って災難を呼びつけるんだよね。うちは不幸を呼びつける節があるから一緒だわ。
……現実的には嬉しくないか。こうなったら達也の活躍をじゃんじゃん書くしかない!