魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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さてさて辻褄合わせをしておかないと、このアイドルストーリーが先に進まないからね…。
月日を勘違いしていたうちが悪いんだけど。


有意義な話し合いの裏

 

 

 

 

 

 

 「誰か来て!泥棒よ!」

 

 

 異変に気づき、叫んだ真紀をベランダから侵入した達也は、少しだけ感心していた。鍵は簡単にピッキングして開けた。防犯設備も響子がハッキングして無効化済み。さほど気づかれるように音を立てたわけでもないのに、淫らな行為中でも気付いた真紀の理性が保っていた事実に達也は、歯ごたえが少しあると思った。それと同時に面倒な女だとも思った。

 用があるのは真紀だけなので、琢磨は眠らせ、ボディーガードの二人も無力化した。

 

 妙な抵抗をされないように、これから行う交渉も有利な展開で話せるように、自分が絶対的有利だという演出を琢磨やボディーガード達を使って、思惑通りに運んだ達也は、もう既に目の前の真紀に対して、感心とかは無くなっていた。

 

 

 「服を直してもらえませんか?」

 

 

 「あら、服を着ちゃっていいのかしら?」

 

 

 「もちろんです。まぁ、貴方がそのままで良いと言うなら俺は構いませんが。」

 

 

 渾身の演技も通用せず、ムッとした表情で身なりを整える。

 

 達也は、その表情から真紀が自分の正体に気づいた事を知った。それを知って、達也は作戦通りだとほくそ笑んだ。

 

 

 「…………これで良いかしら。ところで、いつまでそんな物をかぶっているつもり?似合っていないわよ、司波達也君。」

 

 

 真紀が最も言いたかったのは、「司波達也君」の部分。つまり「正体は分かっているわよ」という事なのだが、覆面で表情が隠れていても達也が少しも動揺していない事が真紀には手に取るように分かった。というか、分からせられた。

 それもそのはずだ。達也は正体を隠す気もなかったのだから。寧ろ、正体を分からせるつもりだったのだ。だから、真紀が達也の正体を見破ったとしても達也にとって痛くもない主張だった。

 

 

 「では話し合いに移りましょう。」

 

 

 「話し合い?いったい何が目的なのかしら?」

 

 

 「まずこれを聞いてください。」

 

 

 言葉遣いが普通に丁寧な事に、真紀は違和感を覚えた。しかしその事は達也の手にする端末から再生された声を聴いて、一発で吹き飛んだ。

 

 

 「盗み聞きしていたのね!?この変態!」

 

 

 「これがマスコミに流出したら大問題でしょうね。」

 

 

 真紀の表情が一気に冷めていく様を拝み、達也は更に言葉を連ねる。

 

 

 「先日も似たようなニュースで大騒ぎになりましたし……峠を越えた元アイドルでもあの騒動だったんですから、今まさに旬の美人女優が」

 

 

 「何が望みなの!?」

 

 

 「要求は二つです。」

 

 

 ヒステリックな叫びをする真紀とは対照的に落ち着いた声で淡々として要求を告ぎ付けようとする達也を真紀は不安に駆られる。

 

 

 「一つ目。七宝と切れてください。ああ、そう言う意味で言っているんじゃありませんから理解できないふりは無しですよ。」

 

 

 「分かっているわよ。」

 

 

 まさにそう言う解釈で(肉体関係と言っちゃいますが…)話を逸らそうとしていた真紀は、先に釘を刺されて不貞腐れた声で頷いた。

 

 

 「二つ目。高校生以下には手を出さないでください。」

 

 

 「………どういう意味かしら?」

 

 

 「あなたが何を目論んでいるのか、詳しい事は知りません。もしかしたら魔法師にとって有益な事なのかもしれませんが、そこに興味はありません。ただ、俺の周囲を引っ掻き回さないでもらえますか。」

 

 

 「えっ……?」

 

 

 真紀はポカンとした表情で、黒覆面の達也を見返した。

 

 

 「大学生以下なら相手も大人ですから、貴方が何をしても干渉するつもりはありません。俺の不利益にならない限りは、ですが。この要求を受け入れていただけますか。」

 

 

 「え、ええ………そんな事でよければ。」

 

 

 拍子抜けする物を感じた。そんな事のために強盗のような真似をしたのか、と真紀は思い、逆に不気味だった。

 達也の行為は法に触れる。それをあっさりと実行してしまっている。法を、国家権力を恐れていない…。それを突然悟った真紀は、聞かない方がいい…、理性で分かっていても聴かずにはいられなかった。

 

 

 「あなた、何者なの……?」

 

 

 「要求の履行を確認次第、音声データを消します。」

 

 

 当然ながら、質問の答えは、得られなかった。

 

 

 「有意義な話し合いを感謝します。」

 

 

 達也は「折り畳まれた翼のような物」を背負い直しながら人を食った台詞を吐き、再びベランダへ出た。

 慌てて、真紀はその後ろを追い掛ける。

 黒装束の少年の姿は、ベランダから忽然と消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 それを、達也は下を覗きこんでいる真紀を上から見下ろして確認して顔を引っ込めた。

 

 

 (これで俺の印象を植え付ける事が出来た。口調も丁寧に落ち着いて話してみたし、俺に恐れを感じただろう。これで、俺がアイドルとして同じ業界に入り、ばったり遭遇したとしても、疑いは薄まるはずだ…。)

 

 

 真紀との交渉の裏で、自分がもしアイドル姿で真紀と遭遇した時、聞き覚えのある声で自分の正体を知られ、面倒事に巻き込まれないように策を練っていた達也は、無事に成功した事を確認した。そして意識は別の物へと移るのであった…。

 

 

 




芸能界は意外と有名人と共演とかありますからね~。真紀との交渉の裏にはこんな思惑がありましたとさ。
確かに対策をしておかないと、真紀は厄介だもんね~…。

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