午後四時。
会議からのCAD開発研究まで早速手掛けていた達也は、時計を見て切り上げ、開発第三課に特別に設けられた自分の研究室へと向かい、そこでスーツからここに来た時のライダージャケットやパンツ、ブーツに着替える。今日は会議だったので、スーツを着用していた達也。この後の予定がなければ、自宅からスーツで来てもよかったが、雫の家で自分のバーズデーパーティーを開いてくれるので、速攻で行けるようにと、ここに置いておいた予備のスーツを着たという訳だ。深雪と水波には事前に雫の家で落ち合うように話している。万が一会議が長引いた時、達也の帰りを待って、深雪達がパーティーに遅れないようにするためだ。
達也がFLTに出かける前。今日の打ち合わせを確認し、玄関で達也を見送りに出た深雪は達也と本当は一緒に行きたかったが、達也が新作を手掛けていて、それが誇らしい事だと理解しているため、言葉を呑み込み、達也を見送ったのだった。
達也も一旦家に帰ってから深雪と一緒に行こうとしたが、深雪が先に行くと言ったので、水波に深雪を任せてみる事にしてみた。水波も深雪の護衛として経験を得るために、力強く頷くのだった。それから、雫の家でパーティーだから、礼服で言った方がいいのか?という話も上がったが、深雪が普段の服で良いと言っていたので、自宅へ帰るよりそのまま向かう算段をしていた。深雪も同じことを考えていたのだろう。すぐに答えてくれたが、その時の深雪の表情は少し恥ずかしげにしていた。
…という訳で、着替え終わった達也は、雫の家に愛車のバイクで向かうため、再び第三課の全員がいる研究室へと挨拶のために足を運んだ。
「それでは、自分はこれで………」
パァ~~~ンっ!!
「「「「「「御曹司~~~!!ハッピーバーズデー!!」」」」」」」」
「………? どうしたんですか、牛山さんその格好?」
「御曹司~!そこはもっと驚いてくださいよ!」
「十分驚いていますよ、牛山さんのその格好が。」
達也は既に研究室に入る前、研究員たちが何やらドアの前に待ち構えている気配を感じ取っていたので、それに関しては驚かなかったが、今目の前にいる牛山の格好には驚いていた。…表情はポーカーフェイスになっているが。
牛山は、大きなケーキのコスプレ?を着ていて、横からは腕が、下からは足が出ていた。なぜそのような格好をしているのか疑問だったが、傍らで笑っているテツが事情を説明した。
「主任、御曹司の誕生日を祝おうとみんなに話してたんですよ~!そしてその時サプライズをしようという話が決まって、主任がコスプレして登場するという感じだったんすけど…。ぷわぁっ!!くくく…。俺達も初めて見たんで…」
「こらっ!テツっ!何暴露してくれてんだ!! これでもサンタとどっちがいいか迷ったんだぞ!?」
(((((なぜ、この季節にサンタ?)))))
「ッテ!!……何でサンタなんですか!主任! 季節外れにも程がありますよ~!!」
「ハァ?何を言っているんだ、サンタはプレゼントを渡す心優しいおじいさんだぞ?誕生日プレゼントを渡す人として、相応しいだろ?」
「「「「「「…………………」」」」」」
まさかの牛山の発言で達也を含めた研究員全員が固まった。サンタを微妙に勘違いしているのと同時に、そのサンタではなく、ケーキに扮した意味が分からないとなぜか春先の心地よい時期なのに、真冬に戻ったかのような寒げが身体を襲ったのだった。
それからは、達也も苦い笑いをしつつ、開発第三課のみんなが誕生日祝いでくれたプレゼントを持って、FLTを後にする。
そのプレゼントは、龍の彫刻が掘られたブレスレット型のCADを二つ、達也にだけの特別なCADをみんなで多忙の合間を取って、休憩なんかそっちのけで作り上げた逸品だった。
自分仕様に合わせたCADを作ってくれた開発第三課のみんなに感謝する達也は、胸に湧き起こる温かい気持ちに応えてられない自分がもどかしく思えたが、プレゼントを大事に持って、バイクに乗り込むのであった。
”みんな…、有難う。”
一言、それだけを心の内だけだが残して、バイクを走らせ、雫の家へと向かう達也だった。
牛山達の賑やかさはいいわ~。達也の味方って感じがして、好きなんだよ~!!
達也の誕生日も覚えていたし、祝ってくれてね。パーティーまでは時間は取れなくても、みんなの思いが詰まったプレゼントももらえてよかったね!達也~~!!