「お、お疲れ様…です…、RYUさま…。」
「お疲れ様、美晴。今日はここまでだ。」
「はい…! ご指導有難うございました…!」
すっかり日が傾いてしまい、夜になっても続いていたダンスレッスンも終わり、美晴はもう立っている事も出来ないほど消耗し、息を切らしながら床に倒れ込む。それでも笑顔が絶えない美晴は、昨日と比べてアイドルに近づいて行っていると実感を持てて嬉しそうにするのであった。
それに対し、RYUは汗は掻いているが、呼吸は乱れていない上にコンサート並みの時間を踊っていたし、それと同時に美晴のダンスを見ながら的確なアドバイスをするだけの神経を使っていたのに、床に倒れるどころか、背筋を伸ばして立っている。
この違いに、ドアの隙間からずっと二人を観察し、メイキングになればとこっそり撮影していた金星は、驚きと共に感心した。
(何のメイキングにするつもりなんだよ!金星!!)
二人がしていたダンスレッスンは相当ハイレベルのダンスだった。それこそプロのダンサーが難しいと公言してもいいほどの…だ。最初はRYUも比較的初心者でも踊れるようなダンスをしていたが、美晴が元々ダンスを習っていただけもあって、ランクを上げていったら、とてつもなくダンスのレベルが上がっていった。そのために美晴は自己レッスンでの体力消耗よりも激しかった。そんなダンスを同じようにしていたRYUがまだ踊れそうにしている事が金星にはもうスゴ技を見せられているようで、信じられなかった。
しかし、そう思うと同時にRYUの存在が事務所の再建に大きな力に早速なってくれている事が金星のやる気へと導き出していた。
そんな金星が美晴とRYUのアイドルへの道に陰から希望を見出しているのを視界に収めながらも、無視する事に決めたRYUは、まだ立てないでいる美晴を見下ろして、声を掛けるのであった。
「今日はここまでだ、よく頑張ったな。これでも飲め、運動した時は水分補給が重要だぞ?」
そう言いながら、美晴にスポーツドリンクを差し出した。美晴が頬を綻ばせて受け取ると、RYUも自分のスポーツドリンクを口にし、壁に掛けてある時計を見る。
「ありがとうございます…!RYUさま…! RYUさまのお蔭でこんなに自分が前とは違うって思えたの、初めてです! 確実に成長できたと思えました!」
「…俺は大したことはしていない。一緒にダンスをしていただけだ。……俺だって初心者だからな。」
「え?なんですか?」
「いや、何もない。ほら立てるか?手を貸してやってもいいが。」
「いえ!RYUさまの御手を煩わす訳にはいけません! 大丈夫です、自分で起き上がれます…うぁ!」
RYUに自力で起き上がれるところを見せようとしたが、まだ足に力が入れられないのか、バランスを崩した美晴。しかし、床に叩きつけられそうになったその時、RYUの手が美晴の腕を掴み、社交ダンスで回転してリードされるように優しくアシストしてもらうのだった。
「!!RYUさま!! あ、あ、あ、あ」
「あんまり無茶な事をするな、できない時は出来ないと言え。できないからと言って見損なったりはしない。お前の事は少なくとも努力家だとは理解しているからな。」
ため息交じりではあったが、少しだけ微笑を見せてくれたRYUに美晴は決心し、背筋を伸ばして、真っ直ぐ顔を見つめると、深呼吸して宣言する。
「RYUさま、私は必ずオーディションに受かってみせます! そしてRYUさまみたいなアイドルになります!だから…、これからもご指導お願いします!」
深く頭を下げる美晴。
頭を掻いて、苦笑するRYUは困惑した表情を一瞬見せたが、すぐに温かい笑みを浮かべる。
「おう、その意気ならオーディションも上手くいくさ。頑張れよ。」
「はい! 頑張ります!!」
RYUからの応援メッセージを受け、俄然テンションを上げる美晴。それをRYUは演技している事を忘れそうになり、達也としての思考が頭に過る。
(なんだかほのかに天然さがプラスされたような子だという事も分かったな…。)
如何しようか…、良く思えば、達也のハードなスケジュールにアイドル活動を更に詰め込まないといけないんだよ!それに、深雪にばれないようにだから、活動時間が極端に減る…。
どうやって辻褄合わせようか…!(汗)