真夜達が四葉本家へ帰宅した頃、達也…今はアイドルとして振る舞っているRYUは、同じアイドルの美晴にアイドルレッスンをコーチしていた。
「ハァ…、ハァ…、ハァ…、どうですか? 自分なりに上手くできたと思うんです!」
「確かにな。初めの頃より動きにキレができてきたし、読み込みも早いから上達はしている。ただややリズムが所々噛み合わずにテンポが速くなる傾向がある。それだと動きに無駄が生じやすくなるし、体力が曲の終わりまで持たなくなる。だから、曲のリズムを身体に覚えさせれば更に良くなるだろう。」
「はい! もう一度やります!」
「いや、少し水分補給してからだ。5分休憩しろ。そんなに息が乱れている中で、リズムを身体に刻み込むのは無理だ。自分の息の乱れと合わさって、逆に妨げになるぞ。」
「は、はいっ!! では、休憩後、またご指導お願いします!RYU様っ!!」
汗を掻きながらも笑顔でダンスレッスンに精を出す美晴を見て、RYUは第一印象としては親しみを持てる人物だと認識した。
真夜が事務所を後にしてからスケジュール表や資料を探し回った後、美晴のCMオーディションが後一週間もないことが発覚し、急遽RYUが美晴のダンスレッスンのコーチを請け負う事になった。その際も嫌な顔を一つもしないで、真剣な面持ちで指導を頼んできた美晴の熱意は本当だったと理解し、「まっすぐでいい子だな…。」とRYUは心の中でそう思うのだった。
ただ………
「で、できました!! いつもの場所で躓いていたステップがやっとできました!さすがRYU様です!!RYU様に教えてもらえるだけでも感激なのに、アドバイス一つもらっただけで一瞬でできちゃうなんて、RYU様も救世主様ですっ!!」
瞳を潤ませて尊敬のまなざしを向けてくる美晴の態度と自分を『RYU様』とか、『救世主様』とか大袈裟ではないか?と思う呼び方に、RYUは苦笑いするしかなかった。だけどやはり自分がそこまで言われるほどのものではないと思っているから、呼び方を直すように言ってみる事にした。
「……その『RYU様』とか『救世主様』とかいう、呼び方…、止めてくれないか?
俺はそこまでまだ有名なアイドル…、でもない。もっと砕けた感じで良い。」
「むっ! 無理ですっ!! 私にはそんなこと…! RYU様はRYU様と呼ばないといけません!!」
「そんな事はないだろう? 俺が言ってるんだ。呼び方を変えてくれ。」
「…うぅ。じゃ、じゃあ……、り…、RYU~~~~………RYU~~…さま…?」
「………どこが変わったんだ?」
「か、変わりました! ”様”から”さま”に変わりました! ちょっと可愛らしさを出してみて!」
「俺に可愛らしさをつけないでくれ…。変わっていないじゃないか。そもそも俺の方がアイドルとしてはあんたより後輩なんだから、頭をぺこぺこ下げないでくれないか?」
「そ、そんな~~!! RYUさまはこの事務所で先輩後輩でも、アイドルとしては既に私より名が広まっているんですよ! 私はまだデビューもしっかりできていないまさにアイドルの卵のそのまた卵です! この業界では売れているか売れていないかで大きく自分の人生が左右されるんです! だから、私より先に目を出しているRYUさまを尊敬するのは可笑しくないんですよ~?」
美晴が拳を作って、力説したので、RYUはまだアイドルになってままならないし、この業界に対する知識も持ち合わせていなかったので、美晴の言い分にも一理あると思ってしまった。そこからはあまり強引に呼び方を修正させる事は出来なかったが、妥協案として『RYUさん』と呼ばれる事に決まった。……人前では。事務所にいる時やプライベートの時は『RYUさま』に戻る事で折り合いがつくのだった。
「はい、では、今度はRYUさまの番ですね!」
「は?」
「私の事は美晴って呼んでください!」
「…ああ、よろしく、美晴。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!RYUさま!」
二人で呼び方が決まった後、ダンスレッスンを再び開始していく。
真剣にアイドルとしてデビューするために頑張る美晴と、その美晴に細かく、かつ的確なアドバイスと見本をして教えるRYUをドアから覗き見て見守る金星は、感動の涙を流し、ハンカチを濡らしまくるのであった。
こうやって少しずつ関係を築き上げれたらいいね。
達也もRYUというアイドルを構築しつつあるし、頑張れ二人とも!!