周公瑾の写真をあっさりと消去した真夜は、嫌悪感を向けているものの、なぜかほんの少しだけ親しみを込めて眺めている………ように見えた葉山さんは、僭越しながら真夜に問いかける。
「どうなさいました、奥様?
何やらその者に不快感とは違った心境をお持ちのようですが?」
「あら、葉山さんにはお見通しなのね。」
「奥様の御傍に常に仕えている私めだけが見抜ける…というだけなので、ご心配なく。」
「そう…、葉山さん相手に隠すのも今更よね…。」
ため息を吐いて、観念した真夜は、冷ややかに見つめていたいつもの威厳から急に乙女の顔つきになり、目を輝かせたのだった。
「だって~~!! この周公瑾という男がマスコミに裏工作に手を伸ばしてくれたおかげで、達也さんのアイドル姿を拝む事が出来たし、これからどんどん達也さんのカッコいい所が見られるじゃないっ!? 本当なら達也さんは絶対に乗らなかったけど、彼のお蔭で引き受けてくれたし、例え四葉に仇名す者でも、少しくらいは感謝したいと思うでしょう!!?」
話しながら徐々に身体が前のめりになり、胸元が開いたワインレッドのワンピースを着ているため、豊満な胸が葉山さんに近づく。葉山さんは決して下を向かないように、視線にも入れないように注意深く神経を尖らせて真夜の言葉にどう答えるべきか悩んだ。
★★★
まだ達也にも話していない、真夜と葉山さんしか知らない事だが、そもそも達也のアイドル案は真夜が考えた”本音”からだ。
事の発端は、貢から公瑾が魔法師の印象を低下させ、反魔法師の思想を増幅させようとしている旨を報告された所から始まる。裏でいくつかの報道者のトップと繋がりを持ち、マスコミを操作している公瑾の次なる計画を阻止するため、いくつかの対策案が出た。『公瑾と繋がっている報道トップの弱みを握って脅迫したり、スキャンダルを手に入れ、匿名で警察に告発し、関係を断ち切る。』という案もあったが、それだと報道トップを切り捨て、また姿を眩ますかもしれない。
なかなかこれだという案が決まらなかった時、ちょうど気晴らしに見ていた達也の幼い頃の寸劇を見ていた真夜が閃いた。
「そうよ…! 達也さんにアイドルをしてもらいましょう! 要は、大きなネタを作れば、マスコミはそっちの方に目を向ける。達也さんがスーパーアイドルを演技すれば、この上なく注目を集めるし、マスコミも黙っていないわ!」
「それは確かに妙案です。しかし、達也殿をあまりマスコミに曝さない方がよろしいのでは?」
「大丈夫よ!変装させますし、マスコミに尾行されるような真似を達也さんがする訳がないでしょう?」
これには葉山さんも納得し、真夜の立案である『アイドルになって、公瑾の計画をぶっ潰そう大作戦』が幕を引いたのだった。
だけど実際は、アイドルとして活躍させる前に七草がマスコミの裏工作に細工し、四葉家の力を削ごうと神田議員の視察をスムーズにできるように手配してしまったため、急きょ達也にその旨を伝え、恒星炉実験の公開デモンストレーションへと展開した訳だ。お蔭で、アイドルよりも先に実験の方が注目を受けた。
この時点で既に公瑾の計画を滞らせることができたと言える。アイドルはしなくてもいいのでは?と葉山さんは思ったが、肝心の真夜が………
「何でここで辞めるのよ! 達也さんは何があろうと絶対にアイドルをしてもらうんだから!
折角そのために衣装まで縫い上げたのに…。
私は、公瑾の事よりも、達也さんの事で頭がいっぱいなの~~!!」
…と頬を脹れあがらせて、拗ねる。
葉山さんは真夜の頭の中では、公瑾の捕獲よりも達也をアイドルにし、その栄光を心行くまで応援したいというファン精神に本懐が赴いた事に乾いた笑いしか出なかった。
★★★
そして今も、偶然通った道沿いにあるCDショップの店頭にRYUのポスターが貼られているのを目敏く見つけ、急いで10枚買ってくるように言い付けてくるのだった。
葉山さんは、これが真夜の本音だとすると、自分が何故アイドルをする事になったのか、知らずにいる達也にほんの少し同情しながら、言い付け通りにポスター10枚とCD20枚、缶バッジ15個のRYUグッズを買い込んで戻ってきた。
満面の笑みを浮かべて、幸せそうな顔をする真夜を孫でも見るように優しく見守る視線を送った。
真夜のファン精神が達也のアイドルを続けさせてくれていたんだな!ありがとよ!