三人の黄色い悲鳴に若干戸惑ったが、表情はいつもながらにポーカーフェイスを保っていた。
まだ上手く演技切れていないが、ここからは初対面の金星と美晴を相手にしていかなければいけない。まだRYUの性格が知られていない内に自分もRYUとしての振る舞いを確固たるものにしないとな…。と肝に銘じるRYUをよそに、淑女が金星に書類の確認をさせていた。
「他にもこちらの要求はその書類に書いておりますので、全て目に通しておいてください。」
「はい、畏まりました。ですが、救世主様…、じゃなくて……、あの………」
金星は淑女の名を呼ぼうとして躊躇していた。ここにきて、淑女の名を知らなかったからだ。今更「名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」なんて言えるはずがない。効いていなかった自分のミスだ。ではなんて呼ぶのか?救世主様はさすがに止めておいた方がいいだろう。だがそれ以外となると思い浮かぶ呼び方は、もう『奥様』しかない。
金星が困っている事を隠しきれていないので、様子がおかしい事は一人を除いて分かっていた。……その例外の人物である美晴は「何で言い換えたんだろう?救世主様なのに…。」と小首を傾げていた。
無論、これは淑女の意図した事だ。あくまでRYUをこの芸能事務所に在籍させ、資金援助するだけだ。(他にも詳細な取り決めはあるが、それはおいおいと……。)
そのためだけなのだから、自分が名乗る必要もない。もちろん、本名も答える訳にはいかない。だから、淑女は不敵な笑みを浮かべて答えるのだった。
「良いですわよ、救世主様で。
そちらの方があなた方も呼びやすいでしょうから。」
「あ、有難うございます!!救世主様!!」
「それで何か私にききたい事でもあったのではありませんか?」
「は、はい! もし救世主様とご連絡したい場合が生じた時、どうすればよろしいでしょうか? それに関して書類にも記載されていませんし、お聞きしていなかったので…。」
「ああ、その事ですか。それならそこにいるRYUに事伝手を頼んでくださいな。
RYUから連絡を取り持つので。」
「緊急の場合でしても?」
「はい、私も多忙の身ですので、なかなか連絡を取りつく暇がないのです。ですので、万が一の連絡手段はRYUを通してからの連絡をお願いしますわ。」
「そうですか…、RYU様、その時はお手間をかけますがよろしくお願いします。」
「………………ああ。」
RYUが怪訝な顔を一瞬して、またどこを見ているか分からない遠い目を辺りに向ける。金星は頼もしいアイドルが来てくれて大いに喜ぶ。
こうして、いくつかの注意事項や契約の確認を行った後、淑女と老執事を見送り、残ったRYUがさっそく口を開いた。
「………社長、今年度の活動状況やスケジュールを見せてくれないか?」
初めてのRYUとの会話の第一声がこれだったため、金星も美晴も一緒に不思議がる。理解していない事が否応なく知り、RYUは盛大にため息を吐いて、説明を加えた。
「これまでの芸能活動と今後のスケジュールを把握しておかない限り、俺やそこの女子の動きが取れないだろう?」
RYUの説明でようやくアイドルとして頼もしく行動してくれているんだと実感した金星は感動の涙を流しながら、スケジュール帳を取りだす。…いや、取りだそうとした。
「あれ…? おかしいな…。 どこにもない…?」
「そんなはずはないですよ~、ちゃんとそこに…、あ!」
「あ!」
「社長! もしかして昨日まで掃除してたから…!」
「そうだ! 掃除して書類も移動してしまったんだ!どこに置いたっけ?」
「……はぁ~…、何をしてるんだ。探すぞ…。」
大事な書類を全て掃除した時にどこかに収納した二人は慌てふためく。その様子を頭を抱えながら、三人で探すように言うRYU。
初めての三人での共同活動がなぜか書類探しというアイドル活動とはかけ離れた者になってしまったが、早速RYUを中心とした連携は作り上げられつつあったのだった。
金星社長! RYUがリーダーぽくなってるよ~~!!