まさかの大注目アイドル、RYUがこの事務所に現れるとは思いもしなかった金星と美晴。
自分達は夢でも見ているのではないか?と思い、二人共同時に自分の頬を抓る。
「痛たたたたたた~~~………!!!」
「…痛いですぅ~。…って事は夢ではない?」
抓った頬を擦りながら夢ではない事を噛み締め、現実だと実感していく二人。その二人を見て、RYUと呼ばれた青少年はサングラスをまだつけたまま苦笑いをする。そして淑女は………。
「ふふふふふ…! 面白い方々ね…。最高よ…。」
とうとう堪えられなくなり、笑い声を漏らす。口元を手で覆って、高笑いにならないようにブレーキをかけながら笑っている淑女にRYUは、サングラスの奥から意外感と非難の入り混じった視線を向けた。その視線に気づいた淑女は、まだ笑いが込み上げてくるものの、外用の鉄壁スマイルを取り繕い、元に戻る事が出来た。
淑女の取った行動に御付の老執事に問いかける視線を向ける青少年だったが、老執事はそれを無視する。それによって、いつもと違うため敢えて何も窘めないんだなと自分を納得させ、青少年はここぞという時に来る淑女の合図を待つのだった。
「す、す、すみません! 大変取り乱してしまいまして…。まさか彼がここに現れるとは思いもよりませんでしたので…!」
「いえ、良いですのよ? それにしてもお二人の反応を見る限り、既にこの子の事を知っているのですね。」
「そりゃ~、当然です!
デビューしてからたったの一日でファン総数を5万人にもし、爆発的な人気を博した今最も注目すべきアイドル!!RYUですよ!!
特に若い女性から熟女といった幅広い女性のファンを一気に獲得するほどの大人気ですから!
今、どこの芸能事務所も注目し、”絶対に事務所に入れたいアイドルNo.1”とも評されてます!!」
「…………」
金星の力説を聞いた青少年…、RYUは「まさかそこまで注目されていたとは…。」と心の中でかなり過小評価していたアイドルとしての自分の認識を修正した。もっともあくまで社会的評価の方であって、自分自身の評価は依然低いままだが。
ついこの間までマスコミ対策で他の任務を手掛けていただけにまだアイドルとしてどの程度芸能界に浸透しているのか把握しきれていなかった。情報端末で記事を見た時は、あまり関心を持たなかったために深く調べようとも思わなかった。だからか、現に自分が注目を一身に引き受けているという金星の言葉は、冗談だと自分の事ながら思いたかった。しかし、この場に腰を置いて活動する者から裏表ない真っ直ぐな言葉で告げられれば、それが現実なんだと認めざる得ない。
RYUは、自分が今どんな立場に位置しているのかという状況を知り、「面倒な事が起きなければいいが…。」とサングラスの奥から遠い目でこれからのアイドル人生を脳裏に思い描くのだった。
「そこまで知っていらっしゃるなら、話が早いですわ。
よろしければ、この子をあなたの事務所に入れてもらっても構わないかしら?」
「よ、宜しいのですか!?」
「ええ、もちろんです。私共はそのためにあなた方の提携を申し上げたと言っても過言ではないのですから。」
「え?」
「ふふふ…、こっちの話です。 それはそうと、この子がいれば、すぐにアイドル活動も始められますし、困ったことがあればこの子に聞けば問題は解決しますから。
例えば…、事務所の会計をさせたり、あなたのレッスンをコーチしたり…。」
RYUを褒められて嬉しい淑女は話を進めていく。淑女の話を聞いて、金星も美晴も身体を前のめりにして喜ぶ。
「それは本当ですか!? なんと頼もしいんだ!」
「よ、よろしくお願いします!!RYU様!!」
すっかり事務所への入籍が決定してしまったRYUは、灰色の天然癖毛をした髪を掻いて、苦笑いを浮かべると、初めて口を開いた…。
「………どうも。俺はRYU…。 あんた達に栄光を与えてやる。そのために…、この俺が導いてやる。」
サングラスを外しながら、そう宣言したRYUは、鋭い目ではあるがそこに秘められた強い意思の乗った視線で金星と美晴を射抜き、それと対照的な甘い笑みを浮かべる。
「「「キャ~~~~~~~!!!!!RYU様~~~~~~!!!」」」
ミステリアスな感を出しつつ、ドキッとするRYUを見て、金星と美晴が黄色い悲鳴を上げる。
そして二人と同じく淑女もまた、黄色い悲鳴を上げるのであった。
ワイルド感というか、俺様感が出てたね。RYU…!
これからどうなるのか…!!キャラ崩壊は必須だ!