四月二十八日、土曜日、午前十一時…。
ゴールデンスター芸能プロダクションのビルの前に一台の黒塗りの車が停まる。
「……ここが『ゴールデンスター芸能プロダクション』ね。本当に大丈夫なのかしら?」
「ええ、既に下調べは済んでおりますゆえ。奥様が出された条件をすべてクリアしました上、人となりは……会ってみればすぐに分かると思います。」
「…まぁ、いいわ。さて、今から”契約”を結びに行きましょうか。」
車の中で怪しげな会話をしていたが、眼鏡をかけた老執事にドアを開けてもらい、車内から美しすぎる淑女が降り立った。
身体の曲線がしっかりと分かるくらいの白いスーツを着て、網タイツを履いている。服以外の所は白い肌が露出されており、大きな胸元が斬新に見える。そんな身なりをしている淑女がいきなり現れたら、どうなるか…。
歩道に降り立っただけで通行者から驚きと色欲に揺らいだ視線を浴びるのだった。しかし、淑女はその視線を特に気にする訳もなく、老執事に案内されるがままに目の前のビルへと入っていった。
★★★
ピーンポーン…。
来客者を告げるベルが事務所内に鳴り響く。
ついに来た救世主に金星と美晴は唾を呑み込み、慌ただしく動きまくる。
「美晴ちゃん! 僕の格好はどう!?どこもおかしくないよね?」
「…大丈夫です!いつも通りの社長です!!」
金星の服装をざっとチェックした美晴が大きく頷き、扉の方へと急ぐ。
「あ、待って、美晴ちゃん。僕が出るから。」
「そんな、ダメですよ! 社長は社長なんだから、座って待っていてください!ここはビシッとしてないといけないんですよ~~!!」
「いや、お客様をお出迎えするならきちんと僕が応対するべきだと思うんだよね。だから、僕が出る!」
「最初から社長が出て、失敗したらどうするんですか?社長の出番は救世主様が席につかれた所からです。飛ばし過ぎは禁物ですよ?」
「だって、久々の来客だよ?それにただの来客じゃないんだよ?僕たちの救世主様だよ?僕たちの明日がこれに懸かっているんだから僕が紳士的に応対を……」
「あの……、御取り込中申し訳ないのですが…」
金星と美晴が誰が出るかで火花を散らしていると、二人の間を割って入ってきた人がいた。その人物は金星たちよりも年上でありながら、貫録がついている初年の老人だった。しかし、背筋も伸びており、恭しい態度を取る様は、まるで執事のよう…。
二人の考えは当たっており、二人が呆然となっているのを気にせず、ドアの方へと戻る。老執事の背中を追って視線を走らせると、老執事の先には、大変美しすぎる妖艶な雰囲気を持った淑女が立っていたのだった。
「奥様…、どうぞ。」
再び老執事が金星たちへと近づいてくる。今度は淑女を連れて。
金星達と向かい合った淑女が老執事が後ろで控えるのを待って、微笑んだ後、話しかけた。
「お話し中申し訳ありませんね。ベルを鳴らしたのですけど、応答がありませんでしたので、勝手に入らせてもらいました。」
「あ、い、いや、その…、こちらこそ、申し訳ありません。お、お待たせいたしました…。さ、さぁ!どうぞ!こちらへ…!」
淑女に声を掛けられ、そのあまりにも色気のある声に金星が動揺し、どもり気味な話し方で応接間へと自分で案内し始めた。
その状況を見て、美晴は自分も見惚れるほど綺麗な救世主様に金星がテンパるのも仕方ないと思っていた。しかし、予定では美晴が金星の元へ連れて行く算段だっただけに案内できずに心の中で悔しがった。だからか、美晴はまだ動揺で精神不安定の金星(完全に手と足が一緒に出るほどの行動が出ているのが証拠)をフォローするために、御茶の用意を始めるのだった。
「…これがそうなのね。」
「はい、その通りです、奥様。」
「”会ってみればすぐに分かる”…、その意味が今分かったわ。」
「本心からですから。」
「誰の本心の事を言っているのかしら。ね…。」
「奥様の想像にお任せいたします。」
「…いいわ。 席につき次第、早速結んでしまいましょう。」
「畏まりました。」
そんな金星達の第一印象を受け、金星に案内されている中、こっそりと老執事と話をする淑女は、深みのあるソファに座り、”話し合い”ではなく、”契約”を結ぶために早速本題に入るのだった。
救世主様って…。完全に脳内がキラキラと輝いているよ、金星も、美晴も。ピュアだな~~。