生徒達の歓声と黄色い声に圧倒され、硬直していた神田議員とその取り巻き記者は球形水槽が放射線実験室に戻され、校庭で見学していた生徒達が教室へと戻り始める頃になって、ようやく我を取り戻した。
立ち話をする廿楽とスミスに質問する記者に廿楽が説明するのを、教室に帰り際にちらっと見ていたエリカとレオがさっきまで笑顔で友人の実験成功に喜んでいたのと対照的な不機嫌を隠そうともしない顔に変化する。
「ああ…、始まったみたいだぜ。見てみろよ、あの嫌味な顔。何を質問してんのか、離れてても分かるぜ。」
「あんたと同じ意見っていうのは癪に障るけど、確かに気に入らないわね…。自分達の都合のいい見世物に変えようと今、躍起になってるのよ、あれは。本当にムカつく連中よね~! いっそ、一太刀いれてあげようかしら?」
「お前が言うと、本気にしか聞こえねぇ~な。」
「あら、私は本気だけど? 何、止める気?」
エリカが記者達に獰猛な鋭い視線を投げたまま、レオに言い返す。自分を止めるつもりなら、遠慮なく止めを刺してあげる…という巻き込まれる確率が100%の状況になると本能でも分かる雰囲気を今のエリカはオーラを放っていた。
しかし、それをレオは恐ろしいとは思わず、寧ろニヤッと面白そうに笑っている。
「いんや、止めねぇ~よ。それより俺も混ぜろって言いたいくらいだぜ。」
そう言って、拳を突き合わせてやる気を見せるレオに、見方を得たとばかりにエリカは微笑む。
切り込みにいざ行こうかと思い、二人は一歩踏み出す。
しかし、一歩しか前に進む事は出来なかった。
「二人ともやめておけ。お前達が手を下すほどの事でもないし、それほどの器を持った連中でもない。逆に相手の思うつぼになるぞ?」
いつの間に二人の背後に立っていたのか、達也の声で二人が金縛りに遭遇したようにその場から動かなくなった。
「あれ?…達也君、居たんだ………。」
「達也の方が怖~よ。」
血の気が減っていく感覚を身体に感じつつ、そのままの態勢で話すエリカとレオ。
「お前達がなにやら企んでいそうな顔をしていたのが見えたからな。後始末は会長たちに任せてきたんだ。」
「あんな遠くからよくあたしたちが見えたわね…。まぁ、達也君なら何でもありか。」
「でもよ~、達也。あの記者達をほっといて大丈夫かよ? 実験は成功したけど、あいつらがまともに理解しているとも思えないし、でたらめな事を気時にするのは目に見えているぜ?」
「問題ない。反魔法主義を掲げていても、実際に魔法について知識がある一般人はそう多くない。大半は己の利益や損得で賛成するか、否定するかを言っているだけだからな。レオの言ったとおりになるのは、仕方ないだろう。」
「だったら、なおさら…」
「暴力としての脅しでは逆に相手の考えるシナリオに誇張されて世に放たれるだけだ。」
「じゃあ、このまま黙って見過ごせっていうの? 納得できないんだけど?達也君。」
「”暴力として”ならはな。脅しならいくらでもある。」
達也が意味深な言葉と笑みを浮かべて二人を見つめる。それを見て、エリカは察しがつき、同じく妖艶な笑みを浮かべる。
「へぇ~、達也君、もう札を手に入れてるんだ~。人が悪いね。」
「俺は悪い人だと思うがな。」
「そっちの方がたち悪いって!」
「まぁ、俺が使う必要があるかと言われれば、恐らくないだろうな。…既に廿楽先生が仕掛けたようだ。」
達也の視線を追って、見ると、廿楽が高笑いし、記者達に何やら小馬鹿にした様子でいい返し、神田にも何やら白々しい顔で一礼していた。
「あ、帰っていく…。」
「あの後姿、見事にきっちりと並んで歩いているぜ…。大名行列かよ!」
「言い回しが時代錯誤な気もするが…。まぁ、無事に実験も終わった事だし、とにかく教室に戻るぞ、二人とも。 次の授業に遅れる。」
「はぁ~い! 大人しく戻るわよ。もう興も冷めた事だし。」
「やべっ! 俺、次の授業の課題してねぇ~!!悪いけど、俺、先に行ってるぜ!」
大慌てで教室に向かうレオを見送って、達也とエリカが歩いて校舎内に入る。
「……ごめんなさい、達也君。」
二人きりになって、エリカは罰が悪そうな顔で達也に謝る。先程はつい先走ってしまい、達也に迷惑かけそうになったのが恥ずかしいのだ。
「何が? エリカが謝る事はないだろう?」
「だって、あたしあいつらが許せなかったんだもん…。」
「エリカが気にする事はない。人によって捉え方は違うし、あのままエリカが突っ込んで、エリカの印象が悪く書かれた記事にされずに済んでよかった。」
「そ、そう?」
真剣な言い方で話す達也にエリカはドキドキする。照れくさくて、思わず顔を逸らす。
「ああ、俺もエリカのような友達思いを持てて、幸せ者だと思ったほどだ。」
「……………」
次の言葉に里香は胸がチクリと痛んだ。
「……もうここで良いよ。達也君は行くところあるでしょ?あたしも次の授業の準備があるし、先に戻るから!」
「わかった。」
二つ返事で達也は頷き、エリカが階段を上がっていくのを見送ると、振り返り、さっき来た道を逆走していくのだった。
それを階段の陰から見ていたエリカは、消えた達也を確認して、息を吐き出し、教室へと戻るため階段を上がり続ける。
(”友達”……か。…もう、達也君は分かってないわね。
私がただの友達のために、あんなに怒るとでも思っているの?
達也君の魔法師としての未来の可能性を変えれるかもしれない実験を、邪な考えを持った連中に捻じ曲げられそうになれば、腹が立つのは当然でしょう! ……好きな人ならなおさら…。)
「……本当に馬鹿なんだから。」
達也には聞こえないと知ってはいるが、つい軽く愚痴が零れたエリカは苦笑していた。
そして、この輝かしい実験は、翌日のニュースで話題となり、世界各国へと配信されていく。
これにより、達也は魔法研究する者にその名を記憶させるほど有名になる…。
遅くなって申し訳ない!!
エリカ視点でやってみました! 伝えられない恋心を秘めたエリカ、可愛ゆす!!