達也が深雪の心配をしている事を知らずに深雪が遅れた理由を話す。
「実は、先程の授業が実習でしたので、二人ペアになって行う事になったのですけど…。ほのかのペアになった方が……」
「森島だったんだ。」
深雪が言いにくそうにしているので、雫も緊急参戦して、説明に加わる。ただし、表情はいつも通りにポーカーフェイスだが、口調では機嫌が優れないのは明白だ。
「雫~!! いいよ、わたしだって失敗しちゃったんだし、森田君の機嫌が悪かったのも無理ないよ!」
「でも、ほのかが魔法を乱したのは、森山が自棄になってペースを乱してほのかの魔法にまで干渉してきた所為。」
「そうよ、ほのか。ほのかは森高君のミスをカバーしようと立て直しを図っていたのに、それを意固地になってさせなかったのは、間違いなく彼の愚かな判断としか言えないわ。だから、あなたが気に病む必要は無いわよ。」
深雪にしては、この場にいない人物に対し、毒舌だったのには、エリカもレオも幹比古も驚いた。本人の耳に入ったら、しばらくは落ち込むだろうと思えるほどに。
「え~っと……、つまり、ほのかのペアだったその、森下だっけ?そいつが足を引っ張ってくれた所為で、遅くなったって事だよね?
なら、あたしもほのかが責任感じる必要ないと思うんだけど?」
エリカも話を聞くあたり、なんでほのかがそこまで自分も悪いと言うのか、理解できなかった。ほのかは実習もいい成績を収めているし、相手の失敗に対して執着を見せないはずだ。しかし、エリカだけでなく、理由を聞く全員が疑問に思った事なので、全員の視線がほのかに集まる。そして、涙目になるほのかが達也に全身を正して前を向き、謝りだす。
「達也さん!! ごめんなさい!私が森川君たちに達也さんが実験をすることを話してしまったばかりに、こんな事に…!」
ほのかが頭を下げて必死に謝る。
それで、一同は全てを悟った。
達也が大掛かりな実験をすると知った森本が、嫉妬に燃え上がり、自分も闘志を燃え上がらせた結果、ほのかの足を引っ張り、空回りしてしまったという事だったのだ。
容易に想像できる展開に、深雪が意外にも毒舌を醸し出した理由もわかり、達也は苦笑いを堪えるしかない。
「別に構わないさ。詳細の方は話していないんだろ?なら、ほのかが責任を感じる事でもない。もう気にするな。」
「はい…、達也さん。」
達也から「もう気にするな」と言われたほのかは、涙を拭き、笑顔を見せる。同じく視線で諭された深雪と雫も頷いて、この話を終結した。
だが、深雪達が昼食を取りに行っている間、まだ納得していない者達が口をそろえて不満を口にする。
「前から気に入らなかったけど、本当に勘弁してほしいわ~、あの森下!!達也君を目の敵にするなんて!!」
「俺もあいつは嫌いだな~! 上から目線で、鼻高くしてよ! 達也を認めようともしねえ~のは、どういう事だよ!」
「僕も何度か彼の事は見た事はあるけど、今回の事で幻滅したよ。己を見失って、女の子を手を遮るなんて…。」
「あら、ミキ~~? ”女の子の手を遮る”なんて、ほのかたちはそんな事言ってないわよ~? どこをどう解釈したらそう考えるのかしら?」
「べ、別に言葉のあやで深い意味はないよ!!それに、僕の名前は幹比古だ!」
「何を慌てているのかしら~? 女の子には優しくしてあげるのが当たり前なんでしょ~?なら、きっちりと送って差し上げなさい。ねぇ~、美月~?」
「なっ!! 柴田さん!!」
「………顔真っ赤になってるわよ~?ミキ~~?美月がいると思って、嬉しかった?」
「エリカ~~!! 人をからかうのも大概に~~! それに僕の名前は幹比古だっ!!」
「はいはい、分かりましたよ~!でもミキ、いい加減自分の気持ちを決めとかないと、横から取られるわよ~!美月だって、かなり人気なんだから。もっとそこの馬鹿みたいに気楽になってみたら~?」
「誰が馬鹿だって!このアマ~~!!」
「あんた以外、どこにいるっていうのよ!?」
(さっきまでエリカの威圧に怯えていたのはどこに行った?)
…と思いつつ、すっかり意気投合して罵倒する三人がすっかりいつも通りに弄られているのを見て、微笑を浮かべていた達也の元に、小柄だが、すぐに注目を受けるであろう男子生徒が駆け寄ってきた。
「あ、あ、あの!!司波達也先輩!!ぼ、ぼ、僕の事は覚えていらっしゃいますかっ!!」
髪の色はプラチナ。瞳の色はシルバー。肌の色は白。顔立ちにも日本人的な特徴がまるでみられない。こんなにも派手な生徒を忘れるはずもない。達也は記憶の棚から目の前に顔を赤らめてそわそわして経っている男子生徒の事を思い出し、先程の問いに頷く。
「ああ、知っている。隅守賢人。今年進学してきた新入生だ。入学式の時、道に迷っている所を偶々会って、案内したんだ。」
派手な男子生徒が達也に声を掛けてきたため、はしゃいでいたエリカたちも、昼食を手にして持ってきた深雪達も注目する。
深雪達にも分かるように、いきさつを教え、改めて顔を向ける。
「はい!! 覚えていただけて幸いです!! ケントっと呼んでくだしゃい!!」
緊張のあまり、舌を噛んだケントを深雪達、女子達は一気に親密感が心の中に生まれる。
「ああ、分かった。それで、ケント。俺に何の用だ?」
「は、はい!! 実はその…!! 司波先輩が、物凄い実験をされるという話を聞きまして、ぜ、ぜひ僕も! 司波先輩の実験を手伝わせていただきたいとおもって…!!
ど、どうか!僕も手伝わせてくだしゃい!!」
最後の所でまた舌を噛んでしまったケントは恥ずかしさで耳まで真っ赤になる。しかし、元々可愛さが醸し出されているだけあり、余計に可愛さが浮き彫りとなり、深雪達はほのぼのしていた心が、萌えキュンするのであった。
「……可愛過ぎる。」
「……あの一生懸命な感じも堪らないわね~。」
「……まるでほのかを見ている気分だわ。」
「ええ~~!私、あんな感じじゃないよ。」
「ううん、私もほのかの男の子バーションだと思う。」
「雫まで~。」
小声で話し出す女子達をよそに、達也はしばらく考え込む素振りを見せる。しかし、それほど待った間隔はなく、ものの数秒で結論した。
「そうだな、仕組みはそれほど凝ったものでなくてもいいから、実験装置はすぐにできると思うが、問題は使用する魔法の起動式の調整だな…。それらは知識も経験も必要だから、新入生のケントには難しいと思う。手伝ってもらう事と言えば、裏方の仕事になると思うが、それでも構わないか?」
「大丈夫です!! 司波先輩の手伝いができるだけで僕は嬉しいですから!!雑用でも何でもやります!!お願いします!!」
「…………その熱意があれば問題ないだろう。よろしくな、ケント。」
「あ、あ、あ、ありがとうございます!!」
達也から手伝う事をゆるされ、思わずその場で飛び上がって、嬉しがるケントを女子達も思わず拍手する。レオも幹比古も微笑ましく笑って激励を送る。
子犬のような潤んだ瞳で熱心に自分を見つめてくるケントの視線と温かい眼差しを向けてくる友人達、今の一件を遠回しで見学する食堂利用する生徒達の態度を受けて、達也はかなり持て余してしまうのであった。
ケントが可愛い~~!! これがケントが達也たちグループと仲良くなったきっかけでもあるのだ!!
可愛いものには惹かれてしまう…。それが乙女心というものさ!!
そう言えば、結局誰も森崎とは言わなかったな…。達也も正さなかったし。ROSEの仲間内でも「モブ崎」だもんな~。扱いが完全にモブ扱いだわ!!www