場を取り持とうとした十三束の気遣いに、達也は頭痛を感じる。
十三束はなぜ千秋が達也に敵愾心を向けているのかという理由は知らない。純粋に魔法工学を学ぶ魔工師を目指す者同士、負けられないのだろうと考えているからかもしれない。しかし、それならそうと、ビリビリとするような空気を発しはしないだろう。
現に、千秋は十三束に気づかれない程度で睨みつけている。美月はこの場をどう沈めればいいのかと様子を窺っているが、達也としては口を開かないでほしいと思っていた。十三束と同じく、美月も天然な部分があるから、事態がさらに悪化しそうだと思ったのだ。
「何か面白そうなことになってるじゃない~?達也君?」
しかし、窓を開けて加わってきたエリカの登場で、この事態は更に悪化する。達也はエリカの登場により、こうなるなら、美月に任せて見たらよかったと後の祭りな事を考えるのだった。
「エ、エリカちゃん! どうしたの?」
「え~、だって、隣の教室からでも聞こえてたわよ~。達也君に意味わからない事言ってたのもばっちり~。」
皮肉が含まれたエリカの口調で、千秋が一層唇を噛む。それを視界の端に入れて、にんまりと笑うエリカだが、目だけは鋭い視線を帯びていた。
エリカは、元々人とそれほど関わりを持つような人物ではないが、それなりの付き合いはあるし、人の性格を見極める洞察力もある。それらは剣術での特訓で自然と身についたとも言える。そんな表向き社交性のエリカでも、未だに達也に詫びを入れないばかりか、自分勝手な理屈を突きつけてくる態度を改めようともしない千秋が嫌いだ。友達になってくださいと言われても、絶対嫌だと正面切って言えるほどに。
(前から気に入らなかったけど、今年達也君と同じクラスになってからか、余計憎々しげにぶつかってきて…。何様のつもり…!
お門違いの逆恨みをぶつけておいて、達也君に謝らないなんて、人間としてどうなのよ!!前は、達也君に止められちゃったけど、あの子が喧嘩売ってくるのなら、私が代わりに買ってやるわよ! 根性を叩きのめしてあげるんだから!!)
闘志を燃え上がらせるエリカは、大きく目を見開いていく。
「それで司波君、平河さんを協力者に入れてあげてもいいかな?」
十三束がなんとか二人の火花が激しく散っているのを宥めようと言った台詞に、エリカが驚いて、達也に視線を向ける。
「ええ!? 達也君、あの子を協力者に入れるつもりなの!?」
「……俺はそれでも構わないとは思っている。」
仕方ないという感じで酷薄な笑みをエリカにだけ見せる達也を見て、投資は削がれる。しかし、不満はまだ残る。
「…そんな~、達也君、また自分勝手な思い上がりをして、足引っ張ってきたらどうするの?………前の事もあるし。」
エリカはわざと聞こえるように、千秋が去年の論文コンペで相手が敵国のスパイだと知りながら手先となって、周りに迷惑をかけた事を抽象的にした言葉で達也に言った。
千秋がスパイだったと知るのは、一部の人間だけだ。千秋はもしかしてばらすつもりなのかと焦ったが、エリカはそんな無駄な事はしない。
ただ、まだ許したわけじゃないし、また馬鹿げた真似をするのなら、痛い目に遭わせてあげるという、鋭い視線を付け加えて、エリカの意思を伝えたかったのだ。
またしても、虎か豹を思わせる獰猛な美を帯びたエリカの姿に、達也はもっと鑑賞してみたいと思ったが、そろそろ次の授業が始まるし、千秋がいれば効率が上がるのは間違いない。達也はまた今度にしようと、エリカの頭を優しく撫でて、宥める。
「心配いらない。平河なら自分が何をするべきなのか、理解できるはずだしな。それに、この機を使って、俺に実力とやらを見せてくれるかもしれないだろ?」
達也の言葉に、放置されかかっていた千秋の闘志に火が付き、達也が提案した実験に協力するのは癪に障るが、自分の腕前を披露して、活躍してみせることをできると考えると、このチャンスを見逃すわけにはいかないと、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「そこまでいうなら、私も協力してあげるわ。私だってあなたに劣っていないって事を証明してみせるんだから…!!」
授業のチャイムが鳴り、みんな教室に戻ったり、席に着き始める。エリカも千秋の言い方に不満を募らせるが、授業が始まるため、教室に帰っていくのだった。
こうして、協力者がまた一人増え、残り少ない期間での準備が始まりつつあった。
エリカは達也に詫びを入れない千秋が大嫌いなんだよね~~。道理を欠いた態度にも嫌気が差しているし、好意を抱いている達也を潰そうとしたしで…。
エリカの気持ちすっごく分かる!!でも、千秋の小物感が半端ないのはどうなんだろう…。