美月の震えが手を通じて伝わってくるのを、若干戸惑い、持て余していた達也はこの何とも言えない居心地の悪い状況に終止符を打つために、口を開く。
「美月、ありがとう。早速で悪いが、今日から手伝ってくれないか?」
「は、は、はいっ!! ありがとうございます!!達也さん!!それで、私は何をすればいいんですか!? 」
苦笑しそうになるのを何とか抑えて、美月を宥めるようにいつもより力を入れた笑みと口調で協力を取り付ける。達也から了承を受け、目をキラキラとさせ、嬉しがる美月は達也の手を握ったまま、更に前のめりになる。その距離は十数センチあるかないか…。どちらかが顔を動かせば間違いなく事故が起きると断定できる距離と言えば分かるだろうか…。しかも、美月の豊かな巨乳が美月に握られた手に当たりそうなほどにあった。
さらに悪化してしまった状況に傍観していたクラスメイトからのざわめきは大きくなり、嫉妬と羨望の眼差しが注がれる。
そして、最も近い場所で二人を見下ろす感じで目撃する事になったエリカとレオは、エキサイトした美月を意外感で未だに固まっていた。…いや、二人ともそれぞれ思う所は違う。レオは、この後どうなるのかという興味が占めて、食い入るように見つめる。
それを視線で察した達也は、レオに視線だけで助けを求めるが、レオは大きく首を振るだけだった。…もちろん横に、だ。
しかし、達也の助け舟を出したのは、エリカだった。
「美月~? 落ち着こうよ~。 達也君が困ってるよ~。まずは深呼吸しなさい。」
「はぇ? ………はっ! た、た、達也さん!ご、ごめんなさい!!」
エリカが窓から身を乗り出して、達也と美月の間に腕を差しこんで、美月を我に返す。そのお蔭で美月は達也の手を握っていた事や急接近している事などがようやく認識し、うさぎ跳びの如く飛び跳ねて離れ、自分の席に座ったかと思ったら、余程恥ずかしかったのか、真っ赤になった顔を両手で覆って頭から湯気を出すのであった。
「やれやれ、やっと美月が元に戻ったな。…一時はどうなる事かと思ったぜ。」
「…その割には、随分と楽しんでいたように見えたがな。…レオ。」
「そ、そうか? 俺は至ってそんな事はしてないぜ?」
ばつが悪そうに目を逸らすレオを顔をあげて見つめていた達也は、やっと解放された危機感からか、肩の力を抜く。そして今度はエリカの方に視線を向け…ようとはしたが、寸手で止めて、美月に視線を固定する。
達也は、今度はまた違った危機感に直面していたからだ。
エリカは窓から身を乗り出したままで、上半身が完全に教室の中に入っていたのだ。達也の席は窓がある壁と密着している。すると、もう分かる人には分かると思うが、エリカの柔らかい程よい胸が達也の顔の横にあるのだ。さっきは難なく躱し、エリカの胸が達也の頭に乗っかる…という健全な男子なら羨ましがるシュチュエーションを回避した達也。しかし、美月の暴走を止めてくれたエリカに、「胸が当たりそうなんだが、エリカ?」等とは無神経にもほどがあるというものだ。
美月に今回の実験を協力してもらうだけなのに、達也にとっては頭痛が起きそうな展開が続くので、(男子生徒たちにとっては朝から『楽園』である)早くも協力者を募るのは止めようと思い始めたその時だった。
「司波君、なんか面白そうな話をしているみたいだね。僕にも教えてもらってもいいかな?」
「おはよう、十三束。さっきからいたと思うが?」
達也の席の後ろの席である十三束から声を掛けられたのだ。
「おはよう。うん、そうなんだけど挨拶するタイミングを逃したし、さっきの柴田さんの事もあるしで、気になっちゃって…。」
そう言いながら、チラと美月の方に十三束が視線を向ける。達也も同じく視線を向けると、そこには顔を俯かせて手を握りしめた状態で膝の上に置き、居た堪れない心境だと言われなくても分かるほど羞恥の世界の住人となっている美月がいたのだった。
そして、そんな自分に視線が集まっている事に顔をあげなくても感じ取った美月は更に縮こまった。
「はぅ~…。」
待て待て待て!!!
更に事態が悪化してどうするんだよ~~!!そりゃ!ヘムタイやフフフ…な展開が好きな人にはいいかもだけどさ!! こんな事をあ、あの子に知られたら…!
それにまだエリカは姿勢を改めてないからね!!違った意味でのハーレムな展開だよ!達也様~!!