魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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恒星炉実験の許可の裏側はきっとこうだったに違いない。
…また独自解釈ですが、温かい目で読んでくださいな♥


教育者の威厳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一高校の校長室。

 

 

 「教頭、後は頼んだ。」

 

 

 校長室で第一高校校長・百山東は第一高校教頭の八百坂に背広を着させてもらいながら、短く出張で留守にする旨を伝える。

 

 

 「はい、畏まりました。校長が不在の間はこの八百坂が校長の責務を謹んで務めさせていただきます。」

 

 

 深いお辞儀をして校長を見送る教頭に頷きを見せ、校長室を後にしようとしたその時、扉の向こう側から来訪者を告げるベルが鳴った。

 八百坂が急いでインターホンに向かい、来訪者を確認すると、校長に申し訳なさそうに話す。

 

 

 「校長、スミス先生がいらっしゃいました。…どういたしましょう?」

 

 

 百山がこれから出張だという事は、朝の職員会議で既に教師に伝わっている。学校事務に関するような事は八百坂に告げ、指示を仰げばいいが、それを知ってなおこの校長室に訪れたという事は、百山に何かを話すためにスミス先生が来たという事に他ならない。そしてそれは即ち緊急要件であり、出張に出掛ける時間が遅くなるという事。八百坂はそれを危惧して、百山に尋ねたのだった。

 

 

 「……いい。スミス先生の入室を許可する。」

 

 

 少し考える百山は、スミスを招き入れる事にした。まだスミスが赴任して一か月も経たないが、スミスが何も理由なしに突撃してくるような無責任な性格ではない事は分かっているからだ。

 

 

 八百坂に扉を開けてもらい、校長室に入室してきたスミスは、ソファに座って待っている百山に頭を下げる。さすが日本に帰化してかなりの年月が経っているだけあって、日本のマナーはしっかりとできている。

 

 

 「百山校長、突然の来訪をいたしまして、申し訳ありません。」

 

 

 「それはいい。私が出張に出掛ける前に何か伝える事があったのだろう?そこに立っていないで、ソファに座りたまえ。」

 

 

 「はい、失礼します。」

 

 

 スミスが尋ねてきた事も理解し、席に着くように言う百山に一礼し、向かいのソファに腰かける。そしてその後すぐに、達也から受け取っていた電子ペーパーを百山に渡し、説明する。スミスも百山が出張に行く事を十分に理解しているし、百山が腰かけるように言ったのも、速やかに用件を話すようにという意味が込められたものだと理解してもいたので、同時進行で説明する。

 

 

 「二年E組の司波達也君が課程外の実験を四月二十五日に行いたいという申請を先程聞いたので、私の判断で決めるべき案件ではないと思い、百山校長の判断を伺いに参りました。

  その申請のあった実験内容がそちらに記載されているものです。」

 

 

 電子ペーパーに記載されている実験内容に目を釘付けにしながら、スミスの話をしっかりと聞く百山が独り言を呟くように話す。

 

 

 「…なるほどな。彼らしい実験内容だ。また驚く事をしてくれる。…しかし安全は保障しているのか?」

 

 

 「司波君は『計算上では確保できている』と言っていますが。」

 

 

 「そうだろうな、それを含めての実験だ。だが、本当に彼はやり遂げるつもりなのか?”加重系魔法の三大難問の一つ、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉”を。」

 

 

 百山の言葉に未だに何の実験を申請しに来たのか分からなかった八百坂が眼を大きく見開いて、驚愕の表情を取る。声が出なかったのは、自分の叫びで話がこじれてしまうのを防ぐため。

 

 

 「はい、司波君は遊び心で実験をするような生徒ではありませんし、この申請書を提出しに来た時も、彼の本気が垣間見えました。」

 

 

 あの時の事を思い出し、スミスの説明にも力強さが混じり、視線は何としてもこの実験を成功させたいという意思も含まれていた。

 そんなスミスを正面で見つめ、顎に手を当てて、少しの間考える。

 

 

 「…わかった。確かにこの実験はやってみる価値がある。生徒の熱意を教師である私が無下にする訳にもいかん。恒星炉実験を許可しよう。」

 

 

 「ありがとうございます。百山校長。」

 

 

 許可が下り、心から喜びを感じ、百山に頭を下げるスミス。しかし、百山の言葉は続きがあった。

 

 

 「ただし、先生の監督をつける事を条件にこの実験を承認しよう。そうだな…、廿楽先生にお願いしよう。スミス先生はそのサポートをお願いします。」

 

 

 「え?」

 

 

 「スミス先生のお気持ちもわかるが、まだ赴任してきて間もないスミス先生の監督というのは、難しいと思います。ここは、廿楽先生と協力し合って、生徒を支えてやってください。」

 

 

 丁寧な口調でスミス先生に告げる百山にスミスは何も言葉を返す事はなく、頭を下げて了承する。本当はそんな事はないと言いたかったが、百山が言うのも一理あると理解しているからこそ、何も言わなかった。

 ここが研究所なら、食ってかかっていたかもしれないが、ここは学校だ。自分の好奇心より生徒を主体として支えなければいけない場所だ。今回の実験も達也が持ち込んできた実験であり、生徒主体で行うものだ。それを自分も研究メンバーに加わりたいと思っていた事を見抜かれたのだ。

 

 百山の教育者としての威厳を見た気がしたスミスはいい忘れそうになっていた事を言う。

 

 

 「それで、百山校長。この実験に関しては対外秘でお願いいたします。」

 

 

 「わかった…。では、教頭。二十五日の放課後の実験室と校庭の使用許可をしておいてくれ。それとここに電子署名と申し送り書を持ってきてくれ。」

 

 

 「はい! 校長、どうぞ!」

 

 

 今まで蚊帳の外になっていた八百坂が若干待ってましたという素振りを見せたが、そこには突っ込む者はなく。八百坂に渡された申請書が書き込まれた電子ペーパーに自分の署名をし、許可証を発行する。

 

 

 「…よし、これで問題はない。他に私に話しておくことはあるか?スミス先生。」

 

 

 「いえ、全てお話しさせていただきました。」

 

 

 「なら、私はこれで失礼する。出張に行かなければいけないからな。」

 

 

 「お忙しい所、お時間いただき誠にありがとうございます、百山校長。」

 

 

 「期待していますよ、スミス先生。では。」

 

 

 八百坂に扉を開けさせ、出張に向かった百山の背中を見送ったスミスは、任務を達成したという解放感と嬉しさで一人だけになった校長室で小さくガッツポーズをし、安堵の表情を見せるのであった。

 

 

 




百山校長…、懐深い!!
やっぱり教師は生徒を見守りつつ、支えないとね!!でも、まだ百山には裏がありそう。そして八百坂教頭…、なんだろう、小物感が出てたな~~。

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