達也の考えるデモンストレーションを目の当たりにしたあずさと五十里は、徐々にショックから復活し出した。それでもまだ、顔が引き摺り気味なのは、諌めない。五十里は自分に言い聞かせるような声で頷いた後、達也に難しい顔を向けた。
「本当にできるの? 加重系魔法三大難問の一つ、常駐型重力制御魔法式熱核融合炉が。」
プランの核心部分について問われ、達也の顔に微かな迷いが浮かんだ。
ただし、実現性に関する自身の欠如を表すものではなく、どう答えるべきかについて思案する物だった。
「実物はまだ作れません。
実験炉とすらいえません。炉の形をしていませんからね。ですが、核融合炉実現の可能性を去年の論文コンペより派手に、分かりやすいものとして演出する事は出来ます。」
「………『恒星炉』ですか。」
会話の最中も電子黒板から目を離さなかったあずさが、そのままの姿勢で達也の恒星炉のコンセプトを独り言のように呟く。達也の顔も五十里の顔も見ないで、電子黒板を食い入るように見詰める。
(さすがシルバー様……、じゃなくて司波君!!
このプランには、これまでの知識が詰め込まれています…。申し訳ありませんけど、鈴音さんのシステムより遥かに鮮明で、魔法に未来を感じる素晴らしいものです…!!
これが司波君が目指す未来なんですね…!!
なら、このプランに参加しないなんて、私にはできません!!だって、もしかしたらシルバー様の目指される未来のデモンストレーションにお手伝いできる絶好の機会じゃないですか!!魔工師を志す者として見逃せませんっ!!
…でもその前に、シルバー様…じゃなくて、司波君に確認してみないと。)
去年の九校戦での達也の魔工師としての腕前を見てから、達也がシルバーだと確信していたあずさは、呟きを途切って達也へ顔を向けた。その顔には魔工師としての真剣な想いが込められていた。
「これが司波君本来のプランなんですか?」
「独自のアイデアという訳ではありませんが、確かにこれが俺の目指しているものです。まだ必要となる魔法スキルが高すぎて実用化には程遠い段階ですが、我が高の生徒の力をもってすれば短時間なら実験炉を動かす事が可能です。」
あずさの質問に、達也は殊更しっかり頷いた。あたかもこれが自分が目指している頂上だとでもいうように。この恒星炉は本来の目的のためのメインパーツに過ぎないが、達也は今の時点で明かすつもりもなかった。しかし、恒星炉の実現を目指す気持ちは本物だ。
それがあずさにも感じ取れるほど達也の強い眼差しに込められていた。いつもなら達也の鋭い視線にも怯えるあずさだが、彼女に似合わぬ力強さで頷き返し、目を輝かせる。CADオタクの時に見せる目の輝きではなく、このプランに対する達也の本気とこの価値のある魔工師を目指すなら絶対に成し遂げたい難問の課題に挑戦したいという欲が感じられる目だ。
「五十里君。」
そのまま真剣味とチャレンジ精神と熱い志を乗せた顔を五十里に向けた。
「私は司波君の計画に協力したいと思います。五十里君はどうでしょうか?」
「僕も協力するよ。恒星炉の公開実験。神田議員対策というだけじゃなくて、魔法技術者を目指す者として是非とも関わっておきたいからね。」
五十里もまた、あずさと同じく魔工師(見習いとしては、既に二人は知識も腕前も越えているからだ)としての誇りに火がついた。そのため、あずさに問われる前から心は決まっていて、あずさに問われて、すぐに首を縦に振った。…物凄い力強く。
あずさと五十里の協力を得る事に成功した達也は、自分の恒星炉プランが実現にまた一歩近づいた気がして、言葉にはならないが、清々しい気持ちで授業に赴く事が出来た。
だが達也以上に、このプランに自分が関われる嬉しさと昂りがあずさと五十里の胸の内に蠢き、今日の授業が頭に入らなくなり、頬が緩みっぱなしで教師に怒られてしまうという失態を起こす事になる…。
……それでもなお二人の幸せな純情を窺わせる言動は放課後まで途絶える事はなかった。
それを面白く思わない花音は、婚約者の隣で唇を尖らせて拗ねる日を送っている事も五十里は気づかなかったほどだったと言えば分かるだろう…。
魔工師にとっては魅力的なプランだもんね!!!
そりゃ、浮かれない訳にはいかないよ!
でも、五十里、大丈夫かな?後で花音を宥めるのが大変だろうな~~。