そうだ。防御魔法を!
…、無理か。もう魔法力が尽きた。魔法は使えない。
…もう、だめだ!ここで私終わってしまうのかな…?
二人で強く抱きしめ合い、そんなことを考えていた。
亡者は何か呻き声で聞き取れないけど、何かを言っていた。そして、私たちに手を伸ばしてきた。
思わず、恐怖で目を瞑った。
その時、乾いた悲鳴が聞こえた。
びっくりして、ギュッと瞑っていた眼を開けると、そこには身体?から液体を勢いよく噴出させながら、俯せに倒れていく亡者の姿が目に入った。
ドッズンっ……!!
それからはびくりとも亡者は動かなかった。ただ、何か呟いていた。
二人はなんて言っているか聞こうと身体を前かがみにしようとした時、後ろから二人の頭を優しくポンポンと撫でる手が降ってきた。
「うん、お疲れ様。 よくここまで頑張ったよ! 後はゆっくり休んでおいた方がいいから、じっとしていな。
…この子ら、よろしく!!」
「…はぁ、分かった。…見た感じ大したけがはしていないようだな。これなら、大丈夫か…。二人とも、動くなよ。」
いきなりの人の出現に驚いた二人だけど、言われたとおり、じっとすることにした。直感だけど、この人たちは悪い人たちじゃない。
そして私たちに声をかけてくれた人は、もう動かない亡者のそばに寄って、何かをしていた。気になって覗こうとしたら、それを遮るかのようにもう一人が私たちの前にしゃがみ込み、手当てをしてくれた。その際に、くろちゃんの髪も元通りに直った。直しているとき、くろちゃん以外はその髪を見て、笑いをこらえていたが、くろちゃんは考え事をしていたため、気づかなかった。
「…よし、これで大丈夫。暁彰!! 終わった!? 次はこっちよろしく!!」
私たちを手当てしてくれた人、暁彰と呼ばれた人は亡者のそばまで行き、右手を亡者にかざした瞬間、塵となって、風に乗って跡形もなく、消えてしまった。
もう一人の人は、亡者に手を合わせていた。何か儀式的なものだろうか?
そしてくろちゃん達を助けた二人はしばらく密談をして、くろちゃん達に振り返った。
「さて、もう大丈夫だよ! 君たちは帝都に向かっているんだよね?」
こくこくと二人は頷く。
「だったら、私らも帝都に帰る途中だから、よかったら、一緒に行く?さっきのようなもんが出ても大変だしね?」
まったくの同感だったので、即了承する。
「では、出発進行~!!」
★★★
という事で、合計4人の旅となったわけで、道ずから自己紹介をすることに。
「じゃ、まずは私たちからね!! 私は、マリ族のマサユキ。みんなからはマサヤンって愛称で呼ばれているから、そう呼んでくれて構わないよ。
で、こっちが、タツヤ族の暁彰! 口数少ない方だけど、面倒見がいい仲間だから、気軽に話してみてね!」
くろちゃん達を助けた麗人のような美貌をした女性、マサユキは自分だけでなく、仲間の紹介までした。
紹介された男性の方、暁彰は目礼をすると、また先を見据えて黙り込んだ。
その後、慌てて、くろちゃんが自己紹介をする。それに続いて、さっきまでくろちゃんと戦っていた少女も自己紹介をする。
「私、くろちゃんと同じくシズク族のちゃにゃんって言います。よろしくお願いします。」
「くろちゃんに、ちゃにゃん…か。 かわいい名前だね。
ところで、二人は友達?駆けつけてる際に戦いぶりを見ていたけど、タイミングぴったり合っていた。会ったばかりの人間との連携には見えなかったけど?」
「いえ、初めてです。 攻撃の時に役割を決めただけです。」
「へぇ~。そうなんだ。ふ~ん…。案外、二人ともいいパートナーになれるんじゃない? そうだ、バディになっちゃいなよ!」
「「え?」」
「帝都の魔法師ギルドに入ると、仕事やプライベートでもパートナーと過ごす事がしょっちゅうなんだけど、一度パートナーを決められると、変更はできないんだ。だから、性格の合わないパートナーと組まされるなんてよくある事なんだよね。」
「詳しいんですね。」
「…そりゃ、俺達、帝都のギルドに所属する魔法師だし?
それに、依頼された仕事の帰りだから?知ってて、当たり前。」
急に話に加わった暁彰さんにびっくりしたけど、更に帝都の魔法師だと聞いてくろちゃんとちゃにゃんは驚いた。それなら、あの亡者を一撃必殺で倒したのも納得だ。
「そうだったんですね。ところで、どんな仕事を依頼されたんですか?」
ちゃにゃんが丁寧に聞いてみたが、
「ごめん。依頼内容については依頼を請け負った魔法師と依頼人しか知ることは許されないんだ。もし、それが漏れたことで更なる危険が生じた場合、両者とも色んな意味でやばくなるからね。」
マサユキにやんなりと断られる。
「ご、ごめんなさい。 軽く聞いてしまいました。 深く反省します。」
「別に謝る事じゃないよ。これからギルドに入るんでしょ?だったらそのアドバイスをしたってことで覚えておくといいよ! それに依頼終了すれば、あっという間に知ることになるし。」
「そうなんですか?」
「そうそう。面白いよ~。とくに私らのギルド”ROSE~薔薇の妖精~”は自由気ままな連中が多いから、依頼された仕事は何かしらおまけがついてくるよ。それが笑える、笑える!!」
マサユキはそういうと、何かを思い出したのか、おなかを抑えながら、笑い出した。
・・
あの結果がもう少しで、くろちゃんの耳に入ると思ったら、更に笑えた。なんだか、くろちゃんとは同じにおいがする。
マサユキの考えていることがわかる暁彰は呆れて、ため息を吐く。そして、くろちゃんとちゃにゃんに話しかけた。
「二人はどうしてギルドに入ろうとしているんだ? 言っとくが、ギルドはみんながいいところとは限らないぞ? 」
鋭い目つきで問うた暁彰だが、別に怖がらせようとしているわけではない。ただ、二人を心配して、目つきが細まっただけだ。
「私は、”16歳になれば、帝都へと旅に出て、そこでギルドに入って魔法師としての修業を積んでこい”っていう家訓があって、それで、ギルドに入って立派な魔法師を目指し、自分をもっと鍛えたいんです!!」
くろちゃんはぐっと拳に力を入れて、語った。そして、ちゃにゃんは、言うべきかどうか悩んだが、正直に話すことにした。
「私が帝都に来たのは…、婚約者を探しに来たんです。」
この言葉にくろちゃんとマサユキの意識に雷の衝撃が襲った。婚約者の存在によほどのショックだったのか、しばらくは思考停止に陥った。代わりに暁彰が続きを促す。
「婚約者は帝都一の魔法師になりたくて、そのために帝都のギルドに入るために、旅に出ました…。彼が帝都に着いたその後も、連絡を取り合っていたんですが、ちょうど二週間ほど前から音信不通になってしまって…。それで、心配になって、私も帝都へ行こうって決意して、旅に出たんです。そして、ギルドに入ったら、彼の情報が聞けるんじゃないかって…!」
涙を流しながらそう語るちゃにゃん。その決意の固さを知り、暁彰はハンカチをちゃにゃんに渡し、
「そうか。大丈夫だ、ギルドに入っていたのなら、何かしらの情報は残っている。きっとその婚約者の事も分かるはずだ。だから、めげずに探そうな。」
頭をポンポンと撫でた。
「はい!!」
その言葉に勇気づけられたちゃにゃんはもう涙は見せていなかった。
「ねぇ! あの大きな城が見えているのって…!まさか帝都!!」
くろちゃんが遠くに見える城の高塔を指差し、マサユキに聞いてきた。
「え…、あ…、そう。 あの城が見える場所が帝都だよ。」
先ほどの衝撃がまだ続いているためか、いつもの溌剌とした元気がない。そうとは知らないちゃにゃんがくろちゃんの腕を引っ張りながら、はしゃぐ。
「くろちゃん、早く行こう!!帝都だよ!」
そういって二人はまだ先の帝都に向けて走り出した。
そんな二人を後ろから眺めるマサユキと暁彰は真剣な表情をして話していた。
「上手く聞きたい事、聞いてくれちゃったね、暁彰?」
「マサユキが話を聞きそうになかったから、聞いたまでだよ。」
「そんなことない。聞こうとしたから!
それよりも、どうしようか…。」
「今はまだ時期尚早すぎる。多分、いや十中八九壊れてしまう。
だから、時を待つしかないだろうな。」
「そうだな。あの子が支えになってくれたら…、いいけど。」
「そのための計画は練っているはずですが? ギルドリーダーのマサユキさん?」
ふっと、悩ましいな~って顔で苦笑したマサユキはこの話はもうおしまいとくろちゃん達の後を追って走っていった。その後を暁彰と大量の荷物を積んだマットが猛スピードで追いかける。
それから数時間後、目的の地、帝都・マギカサに一行はついた。
とうとう、新展開に持って行けた!!
これからはもっと驚愕展開をしていきたいな。