もう少しいてほしかったな~~!!
文弥と亜夜子と、第一高校に対する宣伝戦についてもう少し細かい話をした後、都心のホテルへと向かう二人を玄関先で見送り、達也は今日の研究を打ちきりにして、自室へと入った。
自室のベッドに腰掛けて、封筒の封を切り、中身を読む。
それを読むと、机の引き出しに仕舞いこみ、ベッドに頭の後ろで重ねた手を枕にして寝転んだまま、先程、舞い込んできた話と一緒に考えを巡らせる。
先ほどの封筒は、用件を終え、名残惜しそうな目をする文弥がなかなか切り出せずにいるのを見かねて、亜夜子が渡してきたものだ。
「これは、達也さんに直接渡すように、とご当主様から頂いたものです。内容は決して他言せぬ様…とも伺っています。」
そう言って、真夜の伝言を伝えた亜夜子も、隣で亜夜子と文弥を見送りに来ていた深雪も興味津々で達也の持つ封筒に目を向けていた。
それを急いでポケットに入れ、二人を見送った達也。
一人になり、中身を開けると真夜の直筆のサインが入った書面が入っていた。
内容は…
『達也さん…、あれから練習はしてくれているかしら? 此方も準備は整いつつあります。早く達也さんがアイドルとして任務に励んでくれるように。
ですが、その前に少し困ったことが起きそうなの。だから、それを片付けてから本格的に任務に遂行してもらいたいと思っております。つきましては、その前に一度顔合わせしておきたいから、その時までに今からいう事をやっておいて頂戴。……………』
…と、”極秘任務(アイドル計画)”についての記述が続いていた。
それを読み終わるとすぐに、引き出しに仕舞い、ベッドに寝転んだわけだが、達也は釈然としない面持ちを感じるのだった。
あの日以来、不本意だが、その”アイドル”をするためのレッスンを自分なりにやっている。地下にあるテストルームの一角を使って、ボイストレーニングやストレッチ、音楽や芸能活動に置いての資料を見て、勉強したりと研究の合間を塗って、今日までやってきていた達也。
もちろん、深雪や水波にバレてはいけないので、二人が寝静まった事を確認してからの練習だ。
寝る時間はそれほど取れていない事はあるが、研究で徹夜する事はよくある事なので、慣れている。それよりも早くこの任務を終わらせたいという思いが強いほどだ。
だが、それでもこうして準備を欠かさずにしているのは、全て深雪のためだ。
もし、深雪がアイドルなんてしたら、それこそ”日常”を送るという些細な自由が失われる可能性がある。それを防ぐためにも、深雪よりはるかに容姿に劣る自分がやった方が、世間の注目を浴びずに済むと考えている。(達也は自分自身が思った以上に注目を集めるとは思っていないようだが)
そのために受けた任務だったが、四葉真夜の掌の上で踊らされているのかと思うと愉快な気持ちではいられなかった。
それでも真夜からの極秘任務といい、文弥達からもたらされた事といい、放っておくわけにはいかない。
文弥の『細かい話』には七草弘一が九島烈に共謀を持ち掛けた事まで含まれていたのだ。
数週間から一か月以内のごく近い未来、第一高校が反魔法勢力下にあるマスコミと政治家から直接的なアタックを受けるという事を知らずにいた場合を考えれば、間違いなく有益な情報なのだ。何とも気乗りしないし、釈然としない思いを抱きながらも、達也はどう対応すべきかと両方に思案を巡らせるのだった。
恒星炉実験と重なっているからな、アイドルはその後だね。でも、その前にアイドルらしい事をしてもらいましょう!!