「現在、国外の反魔法師勢力によりマスコミ工作が仕掛けられています。」
文弥は、この前の諜報活動で仕入れた情報を達也達に聞かせる。わざわざ女装してまで得た情報だ。しっかりと伝えなければ自分の存在意義に関わると無意識に思ったのかどうかは分からないが。
「まぁっ!」
「何処からだ?」
文弥の言葉を聞いて、深雪は軽く目を見張り、達也は外から見分けられる変化はなかった。
「USNAの『人間主義者』です。」
人間主義者とは、魔法を人間にとって不自然な力と決めつけ、人間は天(あるいは神)に与えられた自然な力だけで生きていくべきとする宗教的な側面を持った魔法師排斥運動の事だ。
「いわゆる人間主義者なら随分前から国内に侵入しているが、それとは別口なのか?」
「いえ、大本は同じだと思います。新たな工作段階に入ったという事ではないでしょうか。」
「マスコミを使った反魔法師キャンペーンか。」
「マスコミだけではありません。野党の国会議員にも手が回っています。」
達也の質問に、文弥が嬉々として答える。それだけでなく、自らの補足も兼ねた長い説明を噛まずに言い終える。
その様子は達也と話ができている現状に嬉しさを感じていると見ればわかるものだ。しかしほんの一瞬、垣間見えただけで、補足説明の際は、引き締まった表情で、これからの反魔法師キャンペーンのシナリオを話していた。
長い説明を終えて、一旦水波に出されたお茶でのどを潤し、再び顔を上げると、達也が文弥に賞賛の眼差しを向けていた。
黒羽家は四葉一族の中で諜報を担う分家だ。多様な情報収集手段を豊富に有している。それを見事に使いこなし、個々の事象の奥に隠されたシナリオを暴き出した文弥を褒めているのだ。
「文弥、よくそこまで調べ上げたな。大したものだ。」
「あっ、いえ……ありがとうございます、兄さん。」
途端に、長い説明を一度も噛まずに言い終えた文弥がしどろもどろの口調になった。よく見ると顔まで赤くなっている。これだけなら、文弥が何やら普通でない趣味を持っていると見えるが、それは誤解だ。文弥は単純に尊敬と憧れを向けている達也から上っ面の感情ではなく、本当に褒めてもらえた事が単純に嬉しかっただけである。
その証拠に今は顔が赤くなりながら、頬が緩んで褒美としてなでなでを待っているようにも見える。
ここにいる全員(水波も)が誤解する事もなく、文弥が嬉しがっているのは分かっているが、そうとわかっていても弄りたくなるような雰囲気が今の文弥にはある。
「本当に文弥は達也さんの事が好きなのねぇ。」
「姉さん! 誤解されるようなことを言わないでよ!」
「あら、誤解なの? 達也さんの事、好きじゃないんだ。」
「姉さんの言い方だと好きの意味が違うだろ!」
「んっ? どういう意味に聞こえるというのかしら?」
「それは……」
じゃれ合う姉弟を見る三人―――――――――達也、深雪、水波の想いは「姉弟仲が良い」という点では一致していたが、達也は苦笑気味、深雪は微笑ましげに、水波は白けた顔で、富えs他表情をそれぞれ心情の違いが表れていた。
(本当に弄りたくなるわ~!! 達也さんに褒めてもらうなんて!
この私だって情報収集に活躍したというのに! でも、それを自分から言ってしまうと達也さんに引かれる恐れが…。
ああ~~もう! 文弥だけずるい~~~~!!)
今もなお、じゃれ合っている亜夜子と文弥だったが、亜夜子の弄りの目的が、可愛がるから嫉妬へと変わっていた事に気づいたものは誰もいなかった…。
好きな人に褒められたら、嬉しいよね!
良かったね、文弥! でも、亜夜子としては複雑?