西暦二〇九六年四月十一日。新入生にとっては入学四日目の昼休み。
食堂に集まっているのは、上級生だけでなく新入生も利用する生徒が増えてきた中、彼らが新たなる友達と話す話題として取り上げられたのは、「生徒会副会長(つまり深雪の事だ)」に対する話で持ちきりだった。
「入学式の時、超絶美人の人いたでしょ!? あの人とお近づきになれたらな…。」
「そんな言葉で現せるレベルの人じゃないよ~!! 別次元からやってきたかって、直視して思ったもん!」
「あんなに麗しい女性を見たことがない…。入学式の時から毎夜夢であの方が現れて僕を必死に呼んでくるんだ…。これって運命なのかな~!!」
「そんな運命は認めねぇ~!! …でも、気持ちはわかる!!」
「高嶺の花か~~。けどさ、あんなに絶世の美女なら付き合っている相手はいないよな!? だって、あの方の美貌のレベルに釣り合う男がいるかよ!」
「なら、まだ俺たちにも可能性が…!!」
「「「いや、お前にはない!!!」」」
…などなど、新入生たちは声を潜めて話しているうちに盛りあがっていき、深雪を羨望と信仰と恋愛感情を乗せていた。
それを、近くで聞く上級生たちは、彼女の絶世の美女というフレーズには同感していても、彼女が持つ欠点を知っているがゆえに複雑な心境で新入生の話に耳を傾けていた。
そんな食堂で盛り上がっていた声が一気に静まり返る。
そして、新入生は一心に、一点だけに視線を向ける。
その矢継早な視線が降り注がれる先には、新入生たちがさっきまで話題にしていた深雪がいた。
新入生たちは男女ともに深雪の美貌と洗練された身の動きに、呆気にとられ、輝かんばかりの(妄想だ)光に包まれた深雪を直視できずに、ちらちらと盗み見するのだった。
…深雪の隣には当然、達也もいたが。
入学式以来、会う事がそんなになかった新入生は内心、舞い上がっていた。
せめて先輩にお近づきになって、自分を知ってもらいたい…。
…なんて、願望を各々持ち始める新入生達の視線を一心に受け付けている深雪は、この手の視線には嫌というほど慣れているため、完璧に視界の外に追いやり、目的の場所へと歩き出す。
達也に先導される形で。
深雪の動作一つ一つに惚れ込んでいく新入生たち。
その一方、先ほどから深雪のそばにいる男子生徒(もちろん達也だ)には、嫉妬深くて、深雪に向けられている視線とは正反対の意味を持つ視線を一心に受けていた。
達也にとっては既にお約束のものなので、気にもしていない。
深雪は、完全に猫をかぶったような内心を窺わせない鉄壁の愛想笑いを浮かべ、達也の後をついていく。
こうして、深雪と達也は今年も新入生からお互いに違った意味での注目の的になるのだった。
去年も味わった二人だけど、今年も同じ展開。
しかし、新入生たちは後で深雪の欠点を知ることになるだろうな…。深雪のブラコンぷりを。
……風邪ひきには、気を付けて。うちみたいにノックダウンするよ~~…。