でも、ここでなぜ達也が芸術系は苦手なのかが分かるように解説を…。独自だけど!!
達也の歌とダンスを鑑賞した真夜と葉山さんは、予想した展開とは違った結果に呆然とする。
いつもなら、どんなことがあっても表情を崩さずに冷たい面持ちで冷めた視線を伴って、相手を見るが、今の真夜は若い女性のような(年相応ではない)表情をする。
当主としての威厳が保てなくなるほどの衝撃を与えられたという訳だ。
二人のいつもと違う態度に達也もやはり自分には芸術関係の事は出来ないと改めて実感するのだった。
「叔母上、お分かりになっていただけたでしょうか?
これが俺にできる限界です。」
もしやこれで、極秘任務は消え去ってくれるかと諦めていた思考が経つのや頭の中に復活する。
「…………いえ、達也さんのおっしゃりたい事は分かりましたわ。なるほど…。
では、こちらも任務を快く引き受けてくれた達也さんを最大限にバックアップしてあげるわね。
……葉山さん。」
しかし、真夜の頭の中には、任務続行の決意が固まっていたようで、達也の復活しかけていた小さな願いは完璧に消え失せた。
主に呼ばれ、葉山さんは懐から書類を取りだし、達也に渡す。
それを受け取り、達也が書類をパラパラと廻り、再び葉山さんに返す。
「……読んでもらったとおり、早くにもアイドルとしての活動を本格化させておきたいので、これからは出来る限り、時間を空けておいてください。必要最小限に。」
「畏まりました、叔母上。」
「…では、今日はこれにて。詳細はまた追って報告させますわ。」
そう言うと、真夜は立ち上がり、奥の扉へと歩いていく。しかし、扉の前でふと足を止める。
「ああ…、そうそう。達也さん、分かっているとは思うけど、この事は他言してはいけませんよ、誰にも。
私は認めない限り、達也さんがアイドルする事は伏せなさい。」
「…はい、畏まりました。………叔母上の事も話しませんので。」
達也も席を立って、一礼し、真夜が応接間を後にするまでそのまま頭を下げ続ける。気配で完全に真夜がいなくなった事を確認した達也も踵を返して、応接間を後にし、約束した時間通りに帰れる事に安堵すると、留守番する深雪と水波のために、デザートを買って、深雪が待っている自宅へ帰るのだった。
★★★
四葉家本家に向かって走る一台の車の中…。
そこには、とても40代後半には見えないほどの美麗を兼ね備えたワインレッドのワンピースを着た淑女が老齢の執事を前で、ただならぬ行動に走っていた。
「ふふふふふ!!!
達也さん、最高だわ…!!
まさかあんな事になるなんて思わなかったわ!!
ふふふふふ!!!
……お腹が痛い。」
シートをバンバンッと叩きながら、笑いを押し殺そうとして、逆に止められずにお腹を抱えて笑っている真夜に葉山さんも一緒に笑っていたが、淑女としては度を越した笑いをしている主に次第に呆れた視線を向けていく。
その視線に気づいた真夜は、ハンカチで笑いで出た涙を拭い、いつもの調子へとすぐに立て直す。
「ごめんなさいね、葉山さん。
達也さんがあまりにも面白く……、可愛くて耐えられなかったわ。」
「奥様の言いたい事は十分に理解しておりますが、さすがに先程の御様子を他の者達に見せる訳にはいきませんからな。
私めがいるからといって、気を抜かれませんように。」
「あら、葉山さんでもそう言うのね。」
「奥様のために、で御座います。」
主に意見を申すというのは、使用人では考えられない事だが、葉山さんには許してもいいと思うくらいの気の楽さがあるのだ。
真夜も気をつけますと呟き、葉山さんが淹れた紅茶を飲む。
「しかし、奥様。よろしかったのですか?
いくら達也様でもあそこまでのレベルでは、それこそアイドルとしてこの任務を好こう出来るかどうか…。」
「そうね…、葉山さんのおっしゃるのも分かりますわよ?
歌もダンスも、一瞬で記憶し、指先までしっかりと複雑で高度な技も難なく披露してくれました。
しかし、感動はしませんでしたわね。 まるで人形が操られているみたいで…。」
そう言った真夜の唇が吊り上り、妖艶な笑みをこぼす。
「ええ…、技術としてはそれこそトップクラスといっても過言ではありませんでした。
しかし、それだけです。」
先ほど披露してもらった達也の批評をする二人は、達也が苦手だと…、弱点だと言った意味を理解した。そしてそれと同時に納得もした。
音楽ならば、正確な音程、正確なリズム、正確な発声、正確なステップは再現できるが、達也の歌、演奏やダンスは非常に味気ないものだったのだ。
いまどき機械の方がもっと情感豊かな演奏をするくらいだろうと、感じさせられるレベルでしかない。
試しに楽器も演奏してもらった時も素人なのに、プロでも難しいようなテクニックを駆使して、演奏していたが、いまいちピンとこなかった。
歌詞も書かせてみたが、韻を踏み、音節をそろえる事は出来ても、歌詞自体に感情移入できない。
以上の結果から、二人はある結論に達した。
「…芸術的センスの決定的欠如が問題ですな。」
「もっと分かりやすく言うなら、表現力の非常なまでのなさね。
ま、仕方ないんだけど。達也さんは、感情がない…、いえ、一定の感情だけでしか自分を表現できませんし、他人の感情を理解できません。
…例の『人工的魔法師実験』によって、姉さんの魔法によって感情を失くしたから。」
「そうだとすると、達也さんにアイドルをさせるという計画自体は破談になりませんでしょうか?」
「それは大丈夫よ。達也さんの決定的弱点を理解できたという事は、他の方法を使って、カバーすればいいのよ。
…絶対に、達也さんにはアイドルになってもらうんだから!!」
目を輝かせている真夜に、葉山さんは自分以外には絶対に隠していた本性を見せる主に、微笑ましくなる一方、極秘任務の主目的が、達也のアイドル姿を見てみたいから!という何とも言えない甥っ子の隠れファンである主を秘密を隠し通せるか不安に駆られるのだった…。
(達也殿も顔の筋肉が少し引き摺っていましたしね。
少し狂ったのか程度に思っていただけたのなら幸いですな。
もし知られれば……)
そう思う葉山さんの脳内では、真夜の達也の隠れファンっぷりを知った時の、達也の平然と保とうとしながらも視線だけが蔑む様が浮かび、苦笑するしかない。
本家に着くまで、昔の達也のビデオを食い入るように見続ける真夜をひたすらしょうめんに座って、見守る葉山さんだった。
はい、達也がうまく芸術ができない理由です。私独自に解釈した!!
絶望的な欠点を持つ達也に真夜はどうやって、達也をアイドルにさせるのか!!?