ではなぜ、達也をアイドルなんかにしようとしたかって?
見たいからに決まってるじゃん!!
流れ的に極秘任務を受けることになった達也。
本心はできればしたくないという気持ちがあるが、真夜がもし深雪を引っ張り出すのなら、それを阻止しなくてはいけない。
真夜の思うとおりに事が進んでいるのは癪だが、仕方がないと自分を納得させる。
「それで、達也さんは具体的に何ができないというのかしら?バックアップするにも、達也さんの弱点を知っておかないと対処できないから。」
不意に真夜がそう尋ねてきた。
その目には、何かを期待している子供っぽい笑みと輝きがあった。
真夜としては、純粋に何事も完ぺきにこなす達也の弱点を知りたいのだ。しかし、聞いた結果、乾いた笑いが出そうになるのを必死に抑えることになるとは思わなかっただろう。
「……芸術関係ですよ。
俺は昔からそれがうまくできないんです。」
「…あら、でも、この時はしっかりとやっているでしょう?」
そう言って、葉山さんに視線を向けると、恭しく一礼した葉山さんが再びモニターに中学の頃の演劇を再生する。
そこには、黒衣の仮面騎士が姫を悪しき輩から見事な立ち振る舞いと身のこなしで倒していた。
「この黒衣の仮面騎士は達也さんだとは分かっていますわ。この動きは、中学生で為せる業ではありませんもの。」
「確かにそれは俺ですが、台詞は一切出てきませんし、ただ迫力ある斬新なアクションをしてほしいと言われていたので、そうしたまでです。
別に演じていた訳でもありません。」
「それでも十分に通用すると思うけど…。
分かったわ、演劇関係は控えめにさせてあげ……」
「いえ、芸能全てに俺は問題があるんですよ。…だから、気乗りしなかったんです。」
真夜の前にも関わらずに溜息を吐き出す達也に、真夜も葉山さんも口出しはしない。この場に真夜の信仰者でもある青木がいれば、「ご当主様の前で、何たる態度を!厚かましい!!」…と見下すだろう。
しかし、二人は気にしない。
達也が、丁寧な仕草で対応する方がかえって変だ。
それよりも、達也の言葉に、真夜がある考えが芽生え、それを確かめるために、達也に命じる。
「…ねぇ、達也さん。今ここで、踊って、歌ってくださる?」
「……畏まりました。」
一瞬断ろうかとも思ったが、自分の実力を直接見せた方が真夜も考え直すなり、戸惑うだろうと考える。葉山さんがすぐさま、歌詞が書かれた紙と音楽再生装置を持ち出す。
紙を受け取って、速読でものの数秒で読み終えると、葉山さんに返す。
「多分、達也さんも知っている歌だと思うから、やってみて?」
「はい、では………、いきます。」
そうして、達也が今話題の歌手の歌を真夜達に披露するのだった…。
「…………葉山さん、どう思うかしら?」
「………正確な音程、ブレス、ビブラート、声量、発声……はさすが達也様だと思います
。ですが………何と言いますか……」
「…………下手なのよ…ね。」
「叔母上のおっしゃられたとおりですよ。俺は下手ですから。」
実際に披露された達也の歌とダンスに、真夜と葉山さんは、もしかして作戦ミスったかと冷や汗を背中に掻きながら、そう思わざる得なかった。
((………これは達也(さん/殿)には、弱点満載な任務に(なったわね/なりましたね……))
あんだけ達也にはアイドルの素質あるとか言ってたもんね。
さて、この達也の弱点はアイドルにどんな支障をきたすのか…。