真夜さま! 達也を落して!!(降参させてという意味だよ!?)
紅茶を飲んで、形勢を立て直す二人…。
達也としては、終わらせて帰りたい、というよりこの任務自体を消し去った方が早いと思考がそっちに流れ出していた。
しかし、まだ表面上の任務を聞いただけでは、消し去る事もできないし、特異の『分解』を使って消し去る事も出来やしない。
「放棄します」と再度言いたい気持ちを抑え、真夜の話を聞くことにした。
…といっても、態度は既に素直に話を聞く態度ではないが。
あくまで、話だけは聞くという事を理解させるためだ。
そのことは、真夜も葉山さんも言われなくても理解した。しかし、二人にとっては何としても達也にアイドルをさせたい。そのために、徐々に行く手を塞いでいく手段に変える。
「ねぇ?達也さん…。そんなに嫌なの?アイドルになるのが。」
・・・・・・・
「嫌ですね。そもそも俺は、アイドルになるために生かされているわけではありませんから。」
「そんなに謙遜しなくてもいいのよ? 達也さんなら、すぐにアイドルとして活躍できると思うのだけど。 学生でもあるし、色々やってみるに越したことはないと思わない?」
「すでに色々経験してきていますので、結構です。
伯母上が仰られたとおり、俺は学生ですので、学業が本分です。それを怠る訳にはいきません。」
「そうね…、確かに学業が本分なのは、理解しているつもりよ?
でもね…、この極秘任務は達也さんしか頼める人がいないのよ。」
「俺なんかよりももっと相応しい人材がいるでしょう?」
「そうね~、達也さん以上となると、深雪さんしかいないわね。」
「………………」
達也は内心、しまった!と自ら泥沼にはまった気がした。確かに、深雪ならあっという間に人気を博せる。それは誰の目から見ても明らかだ。しかし、深雪を得体の知れない有象無象の中に放り出す事は達也にはあり得ない。というかは断じてない!
「でも深雪さんは、あっという間に人気になってしまうと、辞めるに辞められなくなるでしょう?それこそ大騒ぎになって、私達の事が露呈してしまう可能性が高いわ。」
「………それは否定しません。」
「なら、ここは深雪さんの代わりにという事で、達也さんを抜擢する事に決めました。
達也さんなら、弁えているでしょうし、すぐに馴染むはず。」
「……それで、なぜ俺が了承したみたいな話になっているのですか?」
「だから、言ったじゃない!? 既に決定事項で、これは事前報告だと。」
滅茶苦茶だな…、と横暴になりつつある真夜の言い分に、達也はもう諦めモードに入っていた。
せめてもの、抵抗として最後の反論を告げる。
「………俺は、アイドルになれるような人間じゃないです。」
「それが達也さんの断る理由?」
「……そうですね、それが大きな理由です。」
「なら、アイドルとして相応しくこちらがバックアップすれば、問題はありませんよね?」
「……は?」
「達也さんはアイドルが自分とはかけ離れたものだと思っているみたいですので、その考えを打ち消すように、任務をバックアップさせるわ。
それなら文句はないですわね?」
真夜の押し問答な言い分にとうとう最後の抵抗も霧散し、達也は、断る口実を探すのを完全に諦める。
そして…
「………はぁ~、畏まりました…。その任務…、お受けいたします。」
極秘任務を受ける事を了承したのだった。
つまり、アイドルをやると…!!
真夜は、達也の口からついに、念願の台詞を引き出すことに成功し、内心で飛び跳ねて、淑女らしからぬ大笑いとガッツポーズを取っている事を窺わせない鉄壁の作り笑顔で、頷くのだった。
そんな二人の様子を審判のような面持ちで鑑賞していた葉山さんは、『さすが奥さまです』と静かに主を褒め称えた。
……もう最後は、やけくそになっていたような?
本当は深雪にアイドルさせる気は全くなくても、そう言っておけば達也に聞く耳だけでなく、代わりに努めるという考えは生まれるし、達也の言い分を逆手にとって、逃げ道を塞ぎにかかる…。
真夜も達也と同じく弁舌?だな…。